同じ場所を常に見続けていると、眠気が…

何も動きはない。それなのに、ずーっと出入り口を眺めていなければならないこの状況。もう、しんどくなってきたよ。

正面入り口を張り込む所長が、ホテルに入る別の客の情報を電話口で繰り返している。

『あ、新規の客入ります。はい、次、一組出てきた』
『了解です』

滅多にないとのことだが、まれに他の客と同じタイミングで出てきてしまい、洋服が似ていたりして見失うこともあるので、常に客の入店情報を共有するのだそうだ。

それにしても同じ場所を常に見続けるのは苦痛だ。たまに視線を少しでも外そうものなら、一緒にいる藤原から檄が飛ぶ。

「おい、野村君、ちゃんと見て」

何度も注意されるが、あまりにヒマなので少しづつ眠くなってくる。こんな調子でいいのだろうか。

それから10分ほど経ち、あまりに眠そうなのを見かねて、買い出しを任されることになった。俺がいなくても出入口は確認できているので、パシリを任されたわけだ。

ライン電話で注文を取り、さっき二人が買い物をしていたファミマに入る。ああ、今ごろあの二人はセックスしてんのかな。なんで人のセックスが終わるのを待たなくちゃいけないんだよ。

それぞれの調査員がいる待機場所に飲み物と菓子パンを届けて任務は完了。藤原がいる駐車場に戻ってきた。

職務質問は「半年に1度くらいかな」

にしてもラブホテルの前でコーヒーなんか飲んでたら、かなり怪しまれそうだ。警察に職質されたりしないのだろうか。

「まあ、時々あるよ。半年に1度くらいかな」

そんなペースで職質受けてたら大変だ。俺がイメージしていたマスクとサングラスなんかしてたらもっと危険だったのかも。

「そのときは、警察にはどうやって言い訳するんですか?」
「言い訳っていうか探偵ですって言うだけだよ」

え? それだけで解放してくれるの?

「名刺を見せて仕事中ですって言うだけ。相手もそれ以上は何も言ってこないよ」

探偵業は認可制で警察に許可をもらっているので、張り込みは全く問題はないのだそうな。ただし、その対応をしている間に対象者を見失ってしまったことがあるらしい。

「まだ、この仕事を初めて1カ月くらいのときだけど、メチャクチャ焦ったよ。会社に帰ったら所長にブチ切れられたし」

こわー。あのヤクザみたいな人に説教を受けるのは最悪だな。

その後も特に動きがあるわけでなく、ただただ、ひたすら出てくるのを待ち続ける。常に見張っていなくちゃいけないので、スマホを見ることは当然できない。時間を確認したくても、視線は出入り口を見ながらでないと時計を見ることすら許されない。これが絶対的なルールだ。

いくら待つだけといえども、落ち着くタイミングがゼロなので、これがまあシンドイ。精神的な疲労が蓄積される。