営業は「そのうち消える仕事」ではない

前置きが長くなりましたが、これまで述べてきた「真心」こそ、営業という仕事が持つ唯一無二の価値であり、スキルだと私は考えています。

営業という仕事は、「未来になくなる仕事」としてよく挙げられます。需要も供給も高度なAIで管理するようになれば、間に入る営業はいらなくなる、ということです。確かに今後、必要とされなくなる営業パーソンはたくさん出ることでしょう。

システムやIT、ロボットに頼れば「ミスなく、完璧に、滞りなく」ということはできるようになります。しかし一方で、そうして機械化が進んでいくほど、かえって「人を介してものを買いたい」と考える人も一定以上出てくるのではないでしょうか?

今でも、商品はネット販売ではなく、リアルな店舗で買いたい。本は電子よりも紙で読みたい。おいしいものは出前ではなくお店で食べたい。といった趣味嗜好があるように、人とのやりとりが与えてくれる安心感や楽しさ、気づきなどは機械化が進むほど重視される気がしないでしょうか?

より複雑な商品であったり、高価なものであればあるほど、「どこで誰からのおすすめで買うか?」が大切になることでしょう。「プロポーズ時の結婚指輪、サイズもぴったりだったからメルカリで買ったんだ!」とは、なりませんよね。

定期的な購入は通販であったり、本でもネットで購入する機会が増えましたが、実際の書店に行くと思いもよらぬ新たな本との出会いもあります。レジは自動化されてきていますが、本選びのアドバイスをくれる「コンシェルジュ」さんがいる書店もあるほどです。

コンシェルジュサービス
写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
※写真はイメージです

つまり、営業という仕事がなくなるのではなく、「営業に対する意味や期待が変わる」ということになるのです。ですから、そんな未来を見据えた時に営業で重要なことは、決まったマニュアルに従うことだけではありません。

・商品の説明を丁寧にできる
・「ほしい」とお客さまに言われた商品を手配する
・昨年まで購入いただいたものと同じものを再度提案し、購入いただく

このような仕事は、残念ながら淘汰とうたされていってしまうでしょう。これらはいわば予測可能な作業であり、機械やAIに置き換えられても誰も困らないからです。

一方で必要とされるのは、「自分の気持ちをくんでくれる」「自分では気づけていないことに気づかせてくれる」「思わずワクワクするような提案をしてくれる」など。つまり、前述した「真心」のある仕事ができる人なのです。

マニュアルに固執する人はトップセールになれない

「昨年まで○○を購入されていた方には、さらに△△の特徴を強調した□□というモデルと、よりマイルドで親しみやすい××というモデルがおすすめなのですが、以前、●●さまは、『▲▲』とおっしゃっていたと記憶しているので、□□がぴったりかと思います。一度お試しになりますか?」

このような会話は、お客さまとのお付き合いの中で生まれてくるメッセージです。

今までの成果指標ならば、短時間に、高単価で、できるだけたくさんの商品・サービスを売る営業パーソンが「トップセールス」とはやし立てられてきました。

しかし、これからは会社に評価される営業ではなく、お客さまに愛される営業こそが必要とされ続け、長期間にわたって活躍でき、営業成果も年々上がっていく。そして、「結果的にトップセールスになっていた!」という人が重宝されていくだろうと私は考えています。

そのためには、マニュアルどおりに営業をするのではなく、「マニュアルを見直してみよう」ということです(マニュアルが存在しない場合も同じで、いつものトークを疑ってみてください)。

そもそもマニュアルやトークの型というのは、組織のためにあることが多いのではないでしょうか。組織における営業の役割とは、近視眼的に見れば「組織に利益をもたらすこと」。もちろんそれは企業の存続や繁栄には大切なことで、全営業パーソンが目標を達成していくことは組織として健全だと言えます。

しかし、考えていただきたいのは、そこにどれだけのお客さま視点があるか? です。