従業員との収入格差は4.9倍
薄くなった髪の毛を気にしつつも、「どうせカットするなら美容サロンで」という中年オジサンが密かに増えている。全国理美容製造者協会の「サロンユーザー調査2008年度版」によると、髪のカットは美容院だけという男性の割合は、20代で48.9%、30代で22.9%、何と40代でも13.7%になっているのだ。
美容室でカットやシャンプーをしてもらえば、6000円か7000円はかかる。ついでに白髪染めもと思うと1万円札1枚では足らない。さぞかし美容室は儲かって仕方がないだろう。そういえば、田谷、アルテ サロン・ホールディングスなど株式を上場する美容室まで現れ始めたっけ。そうした中で生まれてきたものが「美容室はオーナー一人勝ち」という伝説だ。
果たして、その伝説は真実なのか、田谷の08年度の有価証券報告書を紐解いてみよう。同社の従業員、1764人の平均年間給与は290万8808円。平均年齢は27.3歳。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」で25~29歳の高卒の平均年収は375万円だから、それを80万円以上も下回っている。
そこで気になるのが役員の収入だが、役員報酬の額は「1億7218万円」とある。役員は12人いるので、その平均額は1435万円。つまり、従業員と比べて4.9倍もの高額所得を懐に入れているわけだ。それに役員賞与が加われば、その格差はさらに拡大する。伝説は、俄然、真実味を増してきた。
さらに美容室オーナーの儲けのカラクリを解明するため、都内に5つの店舗を構える美容院で働く佐藤香織さん(仮名)と竹内由紀子さん(同)に話を聞いてみた。スタイリストで丁寧な仕事が評判の竹内さんを指名するオジサマも多い。また、佐藤さんは竹内さんより半年早く勤め始めたこともあり、一足早く店長さんに昇格している。
調理師と同様、美容師の世界は徒弟制度で成り立っている。新人の仕事は、カットした髪の毛の掃除、タオルの洗濯といった下働きからスタート。初めて客の髪に触れるのは、入店から3カ月くらい経ってシャンプー係になってから。「でも1日何十人ものシャンプーをしていれば、手が荒れてくる」と佐藤さんはいう。
当然、そんな下働きだけでは、肝心要のカットの腕は身に付かない。そこで午前10時から午後8時までの開店時間の前後2時間ほど、人形のモデルを使ったカットの練習を行う。片づけを終え、コンビニで弁当を買ってアパートに着く頃には、時計の針が12時近くを指している。
「当時の初任給は17万円。兄と一緒にアパートに住んでいたので、なんとか生活していけた」と竹内さんはいう。そんな彼女たちの精神的な支えは「1日も早くスタイリストになって、お客を取れるようになること」だった。
ちなみに店のオーナーは50代の元美容師の男性。2年前、閑静な住宅街に立派な一軒家を建てた。愛車はベンツで、モデルチェンジごとに乗り換えている。「数年前にその車が故障して走らなくなったと聞いて、思わず笑ってしまった」と2人は顔を見合わせる。