火薬より砂糖が死をもたらす…プーチン戦争までは
──以前、あなたはこう述べました。「歴史上、平和とは『一時的に戦争がない状態』を意味していたことが多かった。(中略)ここ数十年においては『平和』は、『戦争が起こり得ないこと』を意味する。(中略)戦争の減少は、神が奇跡を起こした結果でも、自然の法則に変化が生じた結果でもない。人間がより良い選択をした結果だ。これが現代文明における最大の政治的・道徳的偉業であることは間違いない」と(『エコノミスト』オンライン、2022年2月9日号)。私たちが後退して、こうした成果を失うことは何を意味しているでしょう?
【ハラリ】プーチンの攻撃が成功すれば、世界中に戦争と苦しみの暗黒時代が訪れることでしょう。
過去数十年、私たちは歴史上で最も平和な時代を謳歌してきました。1945年以降、国際的に承認されている国家で、外国からの侵略により地図から消えた国は1つもありません。
内戦のような別種の争いは減っていませんが、21世紀最初の20年間で、人間の暴力により殺害された人の数は、自殺や自動車事故、肥満に起因する病の犠牲者数を下回りました。
火薬は、砂糖よりも死をもたらす存在ではなくなったのです。
劇的に減っていた防衛費
【ハラリ】この平和の時代は、政府予算にさらに明確に反映されていました。過去数十年間、世界中の政府が自国は充分に安全であると感じたため、軍隊にかけられる予算は平均してたったの6.5%でした。
一方で、教育、保健、ソーシャルワークには、はるかに多くの金額が投資されてきました。EU加盟国のあいだでは、防衛費は平均して3%程度でした。これは驚くべき成果です。
数千年のあいだ、王、皇帝、スルタンたちは、予算の大半を軍隊に費やし、臣民の教育や保健にはほとんど投資しませんでした。古い王たちと同じように、プーチンは予算の10%以上をロシア軍に費やし、社会サービスを疎かにすることで軍事力を築いてきました。
もしもウクライナ侵攻が成功すれば、世界中の国々がプーチンを真似るでしょう。このような征服を夢見る独裁者は大勢おり、彼らはプーチンと同じことをして幸福を感じるはずなのです。民主主義国家も、自衛のために軍事予算を2倍、3倍にするように求められるでしょう。