人々の団結は一人の残酷な野心に勝利する

──ロシアによるウクライナ侵攻に誘発されたウクライナ国民の大脱出は、考えられない規模に及んでいます。ヨーロッパに混乱をもたらすというプーチンの目的の成功のほかに、この大量移住は何を意味しているでしょう?

【ハラリ】たった一人の残酷な野心が、いかに数百万人に悲惨をもたらすことが可能であるかを示しています。

でも私は、プーチンがヨーロッパを混乱させられるとは思いません。事実、彼はヨーロッパを1つにしています。ヨーロッパの人々は、誰も想像しなかったほど迅速で、強力な、全会一致の反応を見せています。

もしヨーロッパがこのまま団結し続けるなら、恐れることは何もありません。ロシア経済は、イタリアや韓国の経済よりも小規模です。ロシアの国内総生産(GDP、2020年)はおよそ1兆5000億ドル(約177兆9000億円)、ヨーロッパ全体のそれは約20兆ドル(約2370兆円)です(1ドル=118円で計算)。

リベラリズムとナショナリズムのあいだ

【ハラリ】ここ数年、ヨーロッパと西側諸国は、左派と右派、リベラル派と保守主義者のあいだの文化戦争に引き裂かれてきました。ウクライナがこの対立に終止符を打つ一助となってくれるかもしれません。いまは誰もが危険を察知しており、「自由」という中心的価値をめぐって団結できるかもしれないのです。

文化戦争は、間違った考えに基づいていました。ナショナリズムとリベラリズムのあいだには矛盾があるというものです。右派はナショナリズムを支持し、リベラリズムを拒絶しました。左派はリベラリズムを支持し、ナショナリズムを拒絶しました。

けれど、リベラリズムとナショナリズムが本当は連動していることを、ウクライナは証明しています。どちらも自由に関わるものです。

ウクライナ人は、自由な社会のために戦うのと同じぐらい、国家の自由のために猛獣のごとく戦っています。さらに彼らは、ナショナリズムとは、外国人を憎むことでもマイノリティを憎むことでもないのだと、私たちに思い出させています。

それは自国民を愛し、人が自分の未来を自由に選択するのを認めることなのです。

ナショナリズムとリベラリズムのあいだの深い繋がりをヨーロッパが思い出せるなら、地域内の文化戦争を終結させることができ、プーチンを怖れる理由は何もなくなるでしょう。