ルハンスクは90%占領されたが、ドネツクでは戦闘が膠着しているわけ

キーウから撤退したロシア軍は東部2州で攻勢を強めていますが、ドネツク州ではおよそ50%の占領にとどまっています。ドネツク州の主要地域は、ロシア軍の侵攻に備えて地下壕を作るなど、コンクリートで固めて要塞化されているからです。クリミア半島が併合された2014年ごろから、危険を感じて準備していました。ドネツク州は経済力においても産業力においても圧倒的に重要なので、防御を固めていたのです。

一方ルハンスク州では、そこまで備えが進んでいなかったので、ロシアがたちまち90%を占領しました。このことからもウクライナがドネツク州の防衛に最大限の力を注いでいることがわかります。ドネツク州を巡る攻防が戦争の今後の枠組みを決めるという認識では、ウクライナもロシアも、西側諸国も変わりありません。

しかしドネツク州のウクライナ軍は、西部戦線で効果を上げたアメリカ製の携行式対戦車ミサイル「ジャベリン」が使えません。ジャベリンは2.5キロくらいまで近寄らなければ撃てないので、山岳地帯や都市部など身を隠せる場所に向いています。しかしドネツク州は地平線の見える平地ですから、接近する前にロシアの狙撃兵に発見されてしまうのです。

そこで欧米は、砲撃戦に備え、最新の「M777」榴弾砲や「カエサル」自走榴弾砲、「パンツァーハウビッツェ2000」自走榴弾砲などをウクライナに供与しています。しかし、こうした最新兵器と同時に、旧式の兵器もいまだ多く使われています。

ランボーも使っていた古い兵器で、20世紀型の地上戦が行われている

ロシア側の報道によると、ウクライナ軍が「トーチカU」というクラスター型の短距離弾道ミサイルを撃ち込んできて、二十数人が死んだ。そこで、トーチカUの発射施設を端から潰しているということです。

トーチカUは90年代にロシアが開発したミサイルですから、命中精度が低い。もはや博物館にしか存在しないというのがロシア側の言い分です。ウクライナは逆に、ドネツク州の病院や鉄道駅を爆撃したのは、ロシア軍のトーチカUだったと主張しています。

黒海で撃沈されたロシア軍の巡洋艦「モスクワ」も、1979年に作られた軍艦でした。前線に出ている「T-62戦車」も60年代のもの。ウクライナ軍が使っているアメリカ製の「スティンガーミサイル」も、88年公開の映画『ランボー3 怒りのアフガン』に登場していました。

1987年1月1日、ゴルバチョフが発表した公的部隊の撤退に伴い、アフガニスタンから撤退するソ連のT-62主戦闘戦車
1987年1月1日、ゴルバチョフが発表した公的部隊の撤退に伴い、アフガニスタンから撤退するソ連のT-62主戦闘戦車(写真=17 U.S. Code § 105/Wikimedia Commons

こうした古い兵器を使って20世紀型の地上戦が行われていることに、私はとても嫌な感じを抱いています。アメリカや西ヨーロッパの国や兵士が参加していたら、こんなにも人がたくさん死ぬ戦争を果たして続けているでしょうか。

東欧諸国は、ウクライナ軍が使い慣れている旧ソ連製の兵器を供与する代わりに、アメリカ製の最新兵器を手に入れています。バイデン大統領が行っている軍事支援も、資金ではなく武器の供与です。かつてアイゼンハワー大統領が、「わが国が軍産複合体に牛耳られるようなことがなければいいけれども」と危惧を表明したことを思い出します。いま潤っているのは、軍産複合体です。ウクライナへの軍事支援は一種の産業政策ですから、アメリカ国内の景気がよくなるのは当然です。