マーケッターの眼

アジアナンバーワンも射程内に。社運をかけたANAの新サービス「インスピレーション・オブ・ジャパン」に期待。

航空会社部門はANAの圧勝である。JALの支持はANAの半分以下だった。JALの評価には同情の余地もある。サービスそのものの評価というより、経営再建問題に引きずられた部分が小さくないからだ。ANAもJALも運賃は変わらない。

にもかかわらず、「価格」の評価はANAが159ポイントで、JALは94ポイント。価格がサービスの質に見合っていないという見方もできるが、やはり経営再建問題が実体以上に評価に影響したと考えるのが妥当だろう。

一方、アジアナンバーワンを目指すANAとしては、グローバル競争の中でいかに存在感を発揮するかがこれからの課題となる。

国際線の顧客満足度でトップを走るのは、SQ(シンガポール航空)だ。SQの強みは、国家戦略レベルでのブランド構築にある。SQは世界初の総二階建て旅客機であるA380を2007年から就航させたが、こうした大胆な施策に踏み切れるのも、大所高所からブランド戦略を考えているからだ。

一方で、SQは機内サービスの細やかさでも有名だ。SQの機内には客室乗務員(CA)を呼ぶボタンがついていない。これは、CAは呼ばれてから行くのではなく、常に機内を回っていてお客様より先に気づいてサービスするという考え方に基づいている。

ハード面での大胆な施策と、ソフト面での細やかさの両輪が高い顧客満足度を生み出していると言っていいだろう。

私の注目企業→ANA

先頃記者発表された、ANAの商品戦略室が中心となって開発した新サービスが、「インスピレーション・オブ・ジャパン」である。座席を交互に配置するスタッガード方式を採用するビジネスクラスは、個人スペースが従来の1.5倍に。

またタッチパネルで機内食を選び、好きなときに注文できるシステムを導入した。ちなみに一人一人のオーダーに合わせて料理を迅速に提供するには、客室のオペレーションとの連携も不可欠だ。

つまりこれは単なる新座席の導入ではなく、客室サービスを巻き込んだ一大業務改善だといえる。この新サービスが顧客満足度にどう貢献するのかは未知数だが、従来の殻を破る大胆なチャレンジには敬意を表したい(2010年2月20日、成田=ニューヨーク線に就航予定の新造機のプレミアムシートの開発遅延により、就航日と座席仕様が変更され、サービス時期が延期された)。

※すべて雑誌掲載当時

(宇佐見利明=撮影 ライヴ・アート=図版作成 <マーケッターの眼>小野譲司/村上 敬=構成)