顧客への提案が通らない、訪問が売り上げにつながらない、といった悩みがあるなら、その原因を一度きちんと解明してみることをお勧めします。「売れない」という問題意識を持つ人は、その原因を「自分に商品知識がないから」と思い込んでいることが非常に多いのですが、それは必ずしも正解ではないようです。

多くの営業マンに共通して見られる敗因には、(1)顧客への理解が浅い(2)ヒアリングの内容が浅い(3)提案書の品質が低いという、3つが挙げられます。

(1)は、顧客の業務内容、会社規模などを知ったところで理解が止まってしまい、その先に無関心なケースです。重要なのは、顧客が今後どのような戦略に基づいて業務展開を行っていくか、そのために自社が提供できるのは何か、ということ。そこで自分なりの仮説を立て、それを検証しながら顧客への理解を深めていくことが、歓迎される提案には欠かせません。

(2)はせっかくのヒアリングの機会で、顧客の要望を掘り下げるより、自分の聞きたいことを優先させてしまうケースなどです。顧客の予算、商品やサービスの仕様、数量、納期など、見積もりのためだけの情報確認では、顧客の深層にある困りごとや問題点に迫ることはできません。

(3)の「品質の低い提案書」には、顧客の現状に合わせてカスタマイズされていないといったものが挙げられます。何年も前のひな型を使っていて内容も見た目も古く魅力に欠ける、属性の異なる複数の顧客に同じ提案書を流用しているため、顧客の要望をカバーしていないなどです。

特に(2)のヒアリングの浅さは癖になりやすく、また顧客が営業マンの力量を図る物差しにもなるので、とくに気をつけたいところです。

会社案内のパンフレットを印刷会社に発注するケースでいえば、パンフレットのページ数、色数などのスペックと納期だけを聞いて提案書を作るA社と、「なぜそのパンフレットが必要なのか」「ライバル企業はどこか」「ユーザーに伝えたいことは何か」まで確認して提案書を作るB社とでは、顧客は当然B社により大きな期待を持ちます。長期的なパートナーになることも視野に入れた交渉を行ってくるかもしれません。対するA社に期待するのはコストダウンくらいのものでしょう。

営業の仕事は売ることだけではありません。顧客への「営業支援」と「業務改善」が本質といっていい。自分が動くことで自社にも顧客にも貢献できるから、使命感が生まれてやりがいを感じることができる。そんな仕事の正体を掴みとることができれば、プロとして一歩も二歩も前進できるはずです。

また、顧客理解の中には、もちろん担当者個人への理解もあっていいでしょう。その場合はやみくもに距離を縮めようとするのではなく、相手に合わせるのが鉄則。雑談の好きな人ならプライベートに踏み込んだ話を展開してもいいし、ビジネスライクに事を運びたがる相手なら自分もそれに倣うべきです。ゴルフが流行っているからと、興味のない人にゴルフの話題を持ちかけるのは感心しません。

「営業という職務を通じて顧客満足を上げることが自分の仕事」という自覚をきちんと持っていれば、個人対個人の付き合いの中でも、おのずと相手に合わせたふるまいが導き出されてくるのではないでしょうか。

(構成=石田純子 撮影=宇佐見利明)