CR-Zは発売から1カ月で1万台の受注を記録した。通常、開発段階の模型は白色だが、CR-Zは黒色を使用したため、研究所内では「黒い弾丸」と呼ばれている。

最初にたどり着いたのは、デザインも燃費もパワーも「そこそこ」という中途半端なクルマだった。さらに新興国向けの需要も取り込もうという声も聞き入れ、開発は混乱の極みに陥る。そこでいったんそれまでの発想を捨て、リセットすることになったのだ。

ちょうど社内ではハイブリッド車インサイトの開発が進んでいた。友部が手がけるスモール・スポーツも、当初から「燃費」を開発の重要なファクターとしていた。欧州全域で売るホンダ車の「企業平均燃費」を引き下げるという要請があったからだ。友部は考えた。

「スポーツカーって、じつはすごく燃費にいい要素があるんです。空力的に優れているし、軽量だし、メカがコンパクトなので車体を小さくできる。すべて燃費に貢献するものなんです。燃費を重視するなら、もしかしたらハイブリッドもあるのかな、と」

その時点ではインサイトに搭載される1.3リットルエンジンのハイブリッドシステムを想定していた。しかし、今度は「それでホンモノを望む欧州の市場に通用するのか」という疑念が頭をもたげた。

「欧州に何十回となく出かけてアウトバーンも走り、すべて知り尽くしているはずの僕が納得しない。ということは『なんちゃってスポーツ』ではダメなんだ。お客さんが満足しない、喜ばない。そう思ったんです。ホンダの価値観は、第一にお客さんの喜びですから」

そのこだわりをとことん突き詰めた結果、エンジンを1.5リットル、120馬力にパワーアップし、オートマチックだけではなく、マニュアル仕様を追加するという最終形にたどり着くのである。