あやうく「宝」を見過ごすところだった
たとえば、認知症介護のプロフェッショナルとして有名な介護福祉士の和田行男さんを取材した時のメモ。こんな風に書かれていたりします。
「お年寄りとあいさつ。顔近い」。
たぶん、朝「おはよう!」と挨拶する時に、和田さんとお年寄りの方の顔がものすごく近かったんでしょう。それを「あれ?」と思って書きとめたのでしょうが、「なぜ、和田さんはそんなに顔を近づけて挨拶をするのか?」という疑問に対して、ロケが半分くらい終わっている時点で、全然答えられないことに気づく。もうどこかで、和田さんが顔を近づけて挨拶するのは当たり前と思って、スルーしていたのです。
それで、あらためて和田さんに「なんで挨拶の時、顔が近いんですか?」と聞いてみると、「においをチェックしている」という答えが返ってくるわけです。
口臭や体臭、尿や便といったさまざまなにおいにはたくさんの情報があって、そのにおいによって、言葉になかなかでてこないおじいさんおばあさんの体調や心の細かな変化をとらえていく。そんな、和田さんならではのプロの技が見えてきたんです。
もうね、あっちゃーですよ。素人の時の違和感を放っておくと、とんでもない宝を見過ごすことがあるんですよね。
ど素人は新しい世界を切り拓く
なので、これから新しいプロジェクトを立ち上げるという人はノートを買ってきて、言葉や感想や違和感をとにかく書き殴ってみるのがオススメです。とにかくまっさらな気持ちで、素直に、感じたままに書くのがポイントです。そして、時々その「ノートの1ページ目」(というのは半分比喩です。厳密には1ページ目じゃないといけないわけではなく、ノートの最初の方という意味です)を開いてみると、おもしろい発見があるかもしれません。
もうずいぶんと長い間、ある業界やプロジェクトにどっぷり浸かってしまっているという人は、自分がまだ素人だった時のことを思いだしてみたり、周りにいるど素人(=子どもや親や新人やパートナーなど)に、今自分がやっていることを30秒くらいで話してみて、その反応をノートに書いてみるといいと思います。
ラグビーのど素人だった僕の違和感がきっかけで生まれた「丸の内15丁目プロジェクト」は、のちに100万人の熱狂につながっていきました。そして、「注文をまちがえる料理店」や「deleteC」でも、僕は認知症、がん、それぞれについてのど素人でした。
でも、だからこそ気づけたことがあったし、その違和感にこだわったからこそ、これまでにない新しい世界を作ることができたのかもしれないと思います。
何の専門性もなく、すべてにおいてど素人であることはコンプレックスでしたし、今もそうだったりもします。でも、企画の始まりは、この素人の違和感が非常に役立ったりするので、素人でよかったなぁ、素人万歳だなと今では思えることが増えました。