「その知ったかぶり、ただの自己満だからな」

企画においてよくないと思うのが、「素人が圧倒的なマジョリティである」という事実を忘れてしまうことです。

どうやったら素人に振り向いてもらえるかが出発点だったはずなのに、だんだんと自分がそのテーマにくわしくなっていくと、「それは常識だから」とか「え、そんなことも知らないの?」とか言いだすわけです。

僕も思わずそういう言葉を発しそうな時ってあります。

でも、そんな時は「その知ったかぶり、ただの自己満だからな」って、自分に突っ込みをいれます。どんどん自分がマイノリティな存在になっていることに気づかず、マジョリティの感覚を切り捨てる。こんなにもったいなくてバカげたことはない、と思うんです。

だから僕は企画をする上で、ど素人の時の自分は、企画者として最高の状態だとすら思っています。

素人の自分が「ん……何これ?」と引っかかる違和感には、かなり多くの人が引っかかってくれるかもしれない。一方、そのテーマにくわしくなってから引っかかる違和感は、世間的にはめちゃくちゃニッチな可能性が高く、マジョリティである多くの素人たちを置いてきぼりにしてしまう確率が高い。

だから、自分でも他人でも構わないのですが、素人が抱く素直な感想や違和感には必ず耳を傾けることを大切にしています。

NHK「プロフェッショナル」では40日間ロケをする

ちなみに、こうした考え方は、NHKで番組を作っている時に学びました。

たとえば、「プロフェッショナル 仕事の流儀」では、40日間ロケをします(僕が在籍していた当時)。文字通り、朝から晩までプロに密着をして、その一挙手一投足を記録していくのですが、そうすると、だんだんと分かってきた「つもり」になっていきます。その業界のことも、その人のことも、なんとなく分かったと言いたくなってくるんです。

本当に穴が開くくらい一生懸命、現場で起きていることやプロのことを見続けていますから、そうなるのも仕方がないんですが、「実はそれが一番危ない状態なんだ」とプロデューサーから叩き込まれました。わかった「つもり」になっている時が、一番ヤバいんだぞと。

超尊敬するプロデューサー(ただし超怖い)の教えを忠実に守ろうと思っていた僕は、「ちょっと危ないかな……」と感じた時は、取材ノートの1ページ目を開くようにしていました。

黒いノートを持ったシャツを着た男
写真=iStock.com/kk-istock
※写真はイメージです

ノートの1ページ目を書いていた時の僕は、その業界にもその人にもど素人な状態です。だから、走り書きしているメモの中には「え、そんなことに引っかかってたの?」ということがたくさんでてきます。