そこから、失われた20年という言葉がありますが、日本経済も日本の企業も精彩をまったく欠いたまま、今日に至っているわけです。それが先ほどの時価総額の結果であり、GDPの結果です。

2021年7月にお亡くなりになった経団連の中西宏明前会長は、「日本は3周遅れのランナーに落ちてしまった」と嘆きました。

東京大学大学院工学系研究科教授で人工知能の研究家である松尾豊さんは、教え子たちに大企業にだけは行くなとアドバイスするらしいです。大企業には将来性がないから、と。

ならばベンチャー企業を作れと勧めるそうです。すでに松尾研究室だけでベンチャー企業が35社誕生していると聞いています。

大企業の限界に気づき始めた若者たち

私もプレジデントという雑誌で月に2回、ベンチャービジネスの経営者を取材していました。これまで200人くらいに会って来ました。

彼らの多くは大企業に入ったけれど、つまらないと言って辞めているんですね。20代30代は一番アイデアが湧き出す時期です。ところが若い人ほど会社の中で自由がなく、上の言うことを聞かなければいけません。

そもそも日本の企業は、新しいものを作らなくなりました。1のものを1.5や2にする商品は作ります。でも、0から1は作りません。前例がないものは作ってはいけないというわけです。

その間に、世界各国の大企業、ベンチャー企業から新しいコンセプトの新商品が次々に生まれ、ヒットしていきました。だから彼らは、希望のない大企業を飛び出して、ベンチャービジネスを始めるのです。

彼らの少なからずが、物件の価格が高い東京のような大都市圏には事務所を構えません。格安の地方に事務所を構えます。インターネットが普及しているから、まったく苦になりません。

もっと言うと、オフィスさえない人もいます。むしろ静かな地方の田舎の方が研究に集中できるし、いいアイデアが浮かぶそうです。

そういう点でも、時代と価値観が大きく変わってきているのです。

時代意識と問題意識の共有から始めよう

さて、すっかりコミュニケーションの話から遠ざかってしまったようです。でも、じつは大いに関係があるのです。長々と述べてきたのは、じつは読者の皆さんと問題意識を共有したかったからです。

私はこの歳になっても、政府のプロジェクトチームや、経団連など財界、経済人との会合や勉強会に参加しています。また大学の研究室やベンチャー企業の経営者たちに招かれ、議論し、お互い情報交換をしています。

それはひとえに、彼らと問題意識を共有しているからです。だからこそ、その問題解決に向けて侃々諤々、議論できるわけです。先ほどの日本経済の変遷の話は、問題意識を共有するための最低限の時代認識なんですね。

共通の時代認識から、共通の問題意識が生まれます。そこから創造的な関係が生まれてくるのだと思います。

そういうつながりの中で発生するコミュニケーションは、当然ですが創造的なものになります。

たんに批判するだけの態度からは、絶対に生まれてこないコミュニケーションです。そしてこれからの時代に必要なのは、そんな関係とコミュニケーションだと思います。

私はいろんな人を紹介するように努めています。ベンチャーの経営者やベンチャーを目指す学生には、同じような問題意識を持っている財界人や政治家を紹介しています。

すると、もともと問題意識に共通するものがあるので、すぐに深いところで話が通じるんですね。

私は人脈という言葉自体はあまり好きではありませんが、少なくとも自分が知っている人たちは、どんどん紹介します。そうすることで、さらに両方の人たちとのつながりが強くなるのです。