国境沿いには、押し寄せる人々に対応する仮設の施設ができた。救急医療と難民申請手続き用のテントも設置された。

ロイター通信によると、国境検問所には各国の軍隊が派遣され、難民の支援に当たっている。国の機関や支援団体に加え、地元の団体や個人のボランティアも、到着した人々の支援に力を尽くしている。

赤十字による炊き出し
写真=iStock.com/Yevhenii Khil
赤十字による炊き出し。ウクライナ・リヴィウ(2022年3月)

人道支援の情報サイト「レリーフウェブ」によると、ポーランド側の一時収容施設の近くには、寄付された物資を集めて配布する小屋がいくつもできた。わずか数日で、どの小屋も市民の提供してくれた食料や水、衣類、寝袋、靴、毛布、おむつ、生理用品などでいっぱいになった。

ドロフスク(ポーランド)の国境検問所前には、ウクライナ語で「どこへ行きたいですか?」と書いた段ボール板を掲げる地元の人が集まった。ポーランド国内に親戚がいるなら、その家まで車で送ってあげようという申し出だ。

同国メディカの検問所周辺では、カトリックの修道女が携帯電話用のバッテリーパックと充電ケーブルを配っていた。

現在、ロシアの爆撃や戦車の攻撃から逃れようとするウクライナ人への同情と共感は急速に高まっている。

しかし、こうした寛容な姿勢をいつまでも維持できるだろうか。

米ノースイースタン大学のセリーナ・パレク教授は、ウクライナの窮状をめぐる社会的な対話を継続できなければ、ロシア大統領ウラジーミル・プーチンのシナリオどおりになってしまうと警告する。

「これで難民危機が起きたらプーチンの思うツボだ。彼の目的は欧米の民主主義を不安定にし、反動的な右派や独裁的指導者の台頭を促すことにありそうだから」とパレクは本誌に語った。「2015年の難民危機後の状況が再現されてしまう」

当時、シリアを中心に約130万人が紛争で荒廃した母国を離れ、安全なヨーロッパを目指した。そしてヨーロッパに押し寄せる難民の数は第2次大戦後最大となった。

当初は、難民の窮状を伝える映像に接した人々が同情し、支援したいという思いが高まった。

だが、時とともに人々の態度は一変した。シリアの惨状を伝える報道が少なくなると、今度は難民を問題視する声が上がった。

パレクによれば、右派の指導者はシリア難民がヨーロッパ諸国の経済的な負担になっていると吹聴し、宗教や文化の違いをことさらに強調した。