EUの分断がプーチンの狙い

シリア人と違って、ウクライナ人には肌の色や宗教など、ヨーロッパとの共通点がある。

だが西ヨーロッパには、東欧の人々は貧しく、文化的価値観を共有していないという先入観がある。だから軋轢が起きるリスクはあるとパレクは言う。

2015年には欧州の政界でこうしたテーマが強調され、欧州全域で右派的な感情がさらに高まった。同じことが再び起これば、プーチンに有利に働く可能性がある。

「ここ8年ほどの間に誕生した右派政権には独裁的な傾向があり、法の支配や人権の原則、国際的に認められた条約から離れようとしている」とパレクは指摘する。「法の支配、民主的な選挙、国際法といった民主主義の原則が(西側諸国で)損なわれたら、プーチンは堂々と民主主義や法の支配を無視できる」

アメリカの保守系シンクタンク「ランド研究所」に所属するチャールズ・リースとシェリー・カルバーストンを含む一部の専門家は、ウクライナ難民の状況は2015年の危機と「同じか、それ以上」に欧州政治に影響を与えかねないと警告する。

「今回のウクライナ人の大移動は、規模において(2015年のときを)はるかに上回っている。それだけ政治的な影響も大きくなるだろうし、右翼や民族主義の運動を勢いづかせるリスクがある」。リースとカルバーストンはロシア軍侵攻の1週間前に、そう論じていた。「過去に移民の流入を経験した社会が新たな難民に反発すれば、NATO加盟国のさらなる分断を招くだろう。ロシアはそれを歓迎し、偽情報を拡散させて分断を広げようとするはずだ」

黒人少女より白人を優先

今でさえ、ウクライナから逃げてきても温かく歓迎されるとは限らない立場の人がいる。ウクライナに居住、就労、留学していたが市民権のない外国籍の人たちだ。

人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのベンジャミン・ワードによると、アフガニスタンやインドなど外国籍を持つ人の場合、ヨーロッパ国境では法的立場が弱い。また欧州的な文化や信仰を共有していないから敬遠されやすい。

戦火を逃れて安全な場所へ逃げようとしたウクライナ在住の黒人の中には、この違いを思い知らされた人もいる。

ウクライナに足止めされているアフリカ系の学生たちは、自分たちに向けられた敵意をソーシャルメディアに投稿している。