ウクライナ侵攻はまたとないチャンスだった
この無理なエネルギーの旗振り役は、いうまでもなく社民党と緑の党だった。ただ、現状のままでは、まもなくガスも電気も燃料も暴騰してハイパーインフレが始まる。産業と国民を救うためには、おそらく原発と石炭火力の稼働延長が必至となるだろう。
ただ、ようやく社民党が掌握した新政権はなんと言えば良いのか? まさか、われわれのエネルギー政策は間違いでしたとは言えない。しかし、万が一、ブラックアウトが起こったりすれば、政権は崩壊する。彼らの苦悩は大きかったはずだ。
すると、その時、ロシアがウクライナに攻め込んだ。ショルツ首相は、これをまたとないチャンスと見た。今ならすべてを戦争のせいにできる。前述の臨時国会が開かれたのは、そのわずか3日後だ。政府はそこで、いわゆる戦後レジームの転換という打ち上げ花火を上げた。
ただ、本命はエネルギー政策の修正だったのではないか。ショルツ首相の「歴史的」スピーチの後、経済・気候保護大臣のハーベック氏(緑の党)がすかさず、原発の稼働延長や、脱石炭火力の期日の後ろ倒しの可能性に言及した。それらはプーチン大統領の未曾有の横暴のせいで、“やむを得ず”必要になった修正に聞こえた。
スーパーではさっそく「買い占め」が…
戦争勃発後、すでに10日が経過した。ミサイル攻撃で炎上する建物や、逃げ惑う人たち。株式市場から発信されたニュースでは、これからドイツが陥る可能性のあるスタグフレーションについて、深刻な予想を弾き出していた。
すでに国外に逃れたウクライナ人は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が発表した3月6日時点で150万人。難民は毎日増えており、ドイツへも続々と到着する。遠いところで起こっていると思っていたことが、だんだん自分たちの生活空間に迫ってくる。
その6日土曜日、大きなスーパーに行ったら、パスタや缶詰の棚が、突然、空になっていた。ドイツ人の頭脳は、急激に戦時体制に切り替わりつつあるようだ。しかし、私は、ヨーロッパで戦争が起こっているという事実を、いまだにうまく咀嚼できずにいる。