財相はあくまでロシアのせいにするが…

だから、いくらベアボック外相(緑の党)が厳しい顔つきでロシアを非難しようが、また、ショルツ首相(社民党)が「ロシアに最大の痛みを感じさせる大規模経済制裁」を敷こうが、そして、それに国民が一致団結で拍手喝采しようが、実際にはロシアからのエネルギーの輸入が止まっているわけではない。

例えば、制裁の決定版と言われたSWIFTからのロシアの排除も、ドイツが踏み切ったのは、ロシアにエネルギー代を支払う方法を確保できたことが分かってからだった。これについてはリントナー財相(自民党)が、「決済ができないからドイツにガスを送れないという口実をロシアに与えないため」と、あたかもドイツが主導権を握っているかのような言い方をした。

しかし実際には、ガスが途絶えて困るのはドイツだ。ロシア転覆より前に、ドイツ経済が破綻するのである。だから現在もドイツには、ベラルーシ、ポーランド経由のヤマル・パイプラインでロシアの高価なガスが届けられている。

報道はショルツ首相や外相の勇ましい演説ばかり

ところが、その深刻な現実を、ドイツのメディアは国民に明確には伝えない。報道は、2月27日の臨時国会でショルツ首相が断行した政治転換(後述)の内容や、ベアボック外相の勇ましい国連でのスピーチ、そして、ウクライナのゼレンスキー大統領の英雄ぶり。まさにプーチンは悪でウクライナは善という単純素朴な勧善懲悪ストーリーになっている。

その上、ドイツの場合、そこに人道支援という大きなファクターが加わる。ウクライナからの難民は一人残らず受け入れるとしたベアボック外相の勇断が、ドイツ人の琴線に触れた。四六時中流れる悲惨な映像に心が引き裂かれそうになっていたドイツ人は、無辜むこのウクライナ国民を救おうと、あちこちでボランティア活動に励んでいる。

そんなわけで、今ドイツには、悪を倒すためには、自分たちは多少の経済的不利益は甘んじて受け入れるのだ、といった悲壮な決意が充満している。まさに、2015年の中東難民支援の時の高揚感とそっくりだ。

前述の2月27日の臨時国会で、ショルツ首相は悲壮な面持ちで言った。「われわれは時代の転換を迎えている。これは、それ以後の世界はそれ以前の世界とは同じものではなくなるという意味だ」と。いったいこの日、ショルツ首相は何を言ったのか?