2020年の裏流行語「多目的トイレ」
「多目的トイレ」。そのワードはあまりにもパワフルすぎて、2020年の裏流行語とも言われたものだ。
それは2020年6月、新型コロナウイルスの感染拡大によって日本が初の緊急事態宣言を経験し、首都圏の人々の間ではコロナ自粛が明け始めた頃だった。生活スタイルの変化と情報への渇望から社会生活の急激なデジタル移行が進み、ウェブも新聞もテレビも、あらゆるメディアへ人々の関心が注がれ、どこの媒体もアクセス数や視聴率は最高レベルで振り切っていた。
そんな中で「お笑い芸人のアンジャッシュ渡部が、多目的トイレで複数の相手と不倫」との文春砲が炸裂。「いくらなんでも多目的すぎる」「多目的トイレにそんな使用目的はない」と大騒ぎになり、多目的トイレとは本来どんな人がどんな目的のために使うのかとワイドショーでは図解までして世間の理解が促進された。
半年後の12月には、芸能活動を自粛し謹慎生活をしていた渡部が年末放送予定の特番に参加し、収録が終了していたとの報道が出て、批判が再燃。不倫直後にはなぜか頑なに開かれなかった謝罪会見が急遽行われるに至った。ところがその100分にも及ぶ会見が何の芸もなくただ謝るに終始したものだから火に油を注いでしまう。渡部の芸能界復帰への道は当分の間、断たれてしまったというのが大方の見解だった。
15歳年下の妻・佐々木希が健気にもバラエティ番組やドラマで稼ぐ陰で、禊なのかどうなのか、築地市場でアルバイトを始めたとか辞めたとか、実は続いているんだとかも細々とささやかれていた。
「誰も待っていなかった」テレビ復帰
その渡部がとうとう今年2月、コンビにとって初の冠番組だったという思い入れのある「白黒アンジャッシュ」(千葉テレビ)でカメラの前に復帰。ところがその報道に対して、世間の反応は残酷な「体温の低さ」を見せていた。
一般人も渡部と同じ芸人仲間も、渡部に対してもはや熱く怒る人はほとんどいなかった。お笑い芸人の間では「基準」とされているような大物芸人たちの反応も、まだ早いような気もするけれど、まあもし本人が復帰するのならすればいいんじゃないの、自分はやりづらいからあまり絡みたくないけれど、というもの。
それは、誰も待っていなかった、ということなのだと思われた。