屈辱の赤字転落で開発方式を大改革

モスバーガーのような強いブランド力を持つ企業にとっても、成長基調を維持するのは楽ではない。コロナ感染が大流行する前の2018年2月から19年7月までのモスバーガーは、ほぼ毎月のように既存店の売り上げが前年割れを続ける状態だった。19年3月の決算では、11年ぶりの赤字に転落してしまう。

そのころまでのモスバーガーは、「つくったものを売る」というプロダクトアウトの開発を行っていた。商品開発部は「うまいものをつくればよい」という姿勢であり、そこで開発された商品を商品流通部とブランド戦略室が引き継いで、原材料の調達やプロモーションを行うというやり方だった。業績悪化の原因は、この開発方式が時代に合わなくなっていることにあると考えられた。

そこでモスバーガーは、2019年4月から「売れるものをつくる」マーケットイン型へと開発方式を切り替えていく。

あわせて、以前には独立性が高かったブランド戦略室、商品開発部、商品流通部を、新設されたマーケティング本部の下に統合する組織改革も順次行われていった。従前のモスバーガーでも、営業から集まる情報や市場調査のデータは、商品開発部に伝えられていた。しかし、つくる人はつくる人、売る人は売る人という縦割りの組織のもとでは、そこから先のコミュニケーションは活性化せず、いわゆる組織のサイロ化が生じていた。

コアなファン層に支えられてきたが…

以前のモスバーガーが、「うまいものをつくればよい」という職人かたぎのマーケティングで売り上げを維持できていた背景には、このチェーン独自の歴史や立ち位置がある。故・櫻田慧氏によって1972年に創業されて以来、同社はモスバーガーやテリヤキバーガーなどの独自性の高い商品、注文を受けてから調理する方式などによって、マクドナルドなどとは異なるハンバーガーレストラン・チェーンとして人気を集め、市場シェア2位のポジションを占めてきた。

当時のモスバーガーの商品開発部の独立性の高さは、同社が創業時からのコアなファンに支えられたチェーンだったことに由来する。長年の関係から好みや傾向を知り尽くしているファン層に向け、商品開発部は「うまいもの」の開発を行っていればよく、顧客が何を求めているか、顧客のどのような期待に応えるべきかを、一から検討し直す必要性は低かった。

新商品の大がかりなキャンペーンを店舗外で行わなくとも、来店してくれるファン層の体験シェアを上げ、そこからの口コミなどによるにじみ出しで業績を拡大できた。こうしたマーケティング方式によってモスバーガーは、プロモーション費用をいたずらに投じないですむ効率的経営を実現していた。