実害がないのであれば気にしないこと

Aさんとは随分長い間話をしました。彼女の話を聞き、認める部分は認めて、Aさんについて書かれているのかどうか分からない曖昧なものに関しては、「そこは気のせいじゃない?」と伝えました。そのときはちょうど年末に近くなっていたのですが、苦しい気持ちのまま新年を迎えるのもしんどいじゃないですか。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という言葉があるように、不安や猜疑心があると、なんでもないものが怖く見えてしまうことがあります。ネットで起きている問題の中には、これと一緒で、なんでもないものがとんでもなく恐ろしいことのように見えたり、本当は違うのに、自分のことが書かれているように思えることもあるでしょう。

Aさんはまさにそのケースでした。そこで、「『これは私のことじゃない』と思える心を持とうよ。実害がないんだったら気にしないこと。そこにぐずぐず捉われて時間を過ごすより、いま何が一番大事なのかを考えて。暗い顔をしていたら魅力的に見えないよ」と伝えたんです。元気になったAさんとは今でも交流が続いています。

「仏法という薬」をお分けしたい

私は僧侶なので、悩んでいる人の手を引き、暗闇から明るい所へ一緒に歩いていこうとすることはできますが、必ずしもすべての人を救えるわけではありません。精神科の医師など、専門家にお任せすべきこともあります。

それでもできることはあると信じています。以前、先輩の僧侶に言われた忘れられない言葉があります。それは、「僧侶は『仏法(仏さまの教え)』という薬を持っているから、悩んでいる人にその教えを伝えて、心を軽くする手助けができる」というものです。これを読んでいるみなさんに、これから毎月「仏法という薬」をお分けできればと思っています。

今月のひとこと
髙橋美清の「今月のひとこと」

これは、伝教大師・最澄さまが天台宗の根本的な教えについて記した『山家学生式さんげがくしょうしき』の冒頭のお言葉です。たとえ社会の片隅であっても、自分が置かれた場所や立場を照らすように、できることを精いっぱいやっていこうという意味があります。「一隅を照らす」の後には「これすなわち国宝なり」と続きます。その場所が光るよう道を究めようとする人こそ、何にも代えがたい国の宝であるという意味になります。

ひどいネット中傷を受け、本当に心がえぐられるほどにつらい思いをした私に、この言葉は一つの光になってくれました。「このつらさを乗り越えれば、自分の経験を、同じ思いをしている人たちに伝えることができる。そうすれば、自分のキズを人の薬にできる。私にも、『一隅を照らす』ことができるかもしれない」と思えたんです。

つらい思いをした人にこそ、できることがある。周りを照らすことができるように思うのです。

(構成=山脇 麻生)
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