「API」を全世界公開を前提として設計する

1つ目は、2002年の「Bezos Mandate」(ベゾスが開発チームに対して送った通達)で示されたAPI標準(Application Programming Interfaceの頭文字を取ったもので、世の中にある多くのアプリケーション、ツール、データ、各種テクノロジーサービスを接続する仕組み)の徹底です。

2つ目は、「ID活用・標準の徹底」です。各商品のIDに関して、アマゾンは商品を出品する際にバーコードを入力することで、サプライヤーにとって多くの価値を提供しています。

3つ目は、「行動に基づく受益者へのフィードバック(顧客、サプライヤー両方)」です。いずれも受益者それぞれの行動のデータ分析をアマゾンは行っています。これは、前記の標準徹底に基づき、かつ顧客ファーストの行動指針の徹底を体現したものです。アマゾンの分析ツールを使えば、誰もが分析作業に取り組むことができます。

以下、それぞれについて詳しく説明していきます。

(1)API標準を徹底させる

「Bezos Mandate」のポイントをシンプルにまとめると、次のようになります。

・社内外向けを問わず、必要なデータや機能へのアクセスに必ずAPIを用意する
・チーム間のコミュニケーションは、API
・APIに使う技術は規定しない
・そのAPIは、全世界公開することを前提として設計しておくこと
・例外はない

顧客視点に立って自立・自律して行動する会社にあって、APIの標準の徹底を行ったことが、アマゾンがそれ以降のデジタル進化でビジネスの成長を加速させた原動力の 1つだと考えます。

アマゾンアプリケーション
写真=iStock.com/kasinv
※写真はイメージです

品質や価格がずれた販売者は自然淘汰される

(2)ID活用・標準を徹底させる

初期のアマゾンマーケットプレイスへの参加者には、マーケットプレイスへの登録作業がやや手間だったかもしれませんが、アマゾンはそれに余りある利便性を提供しています。たとえば、家電製品を売っているサプライチェーンが、ある家電製品のIDを入力したとします。具体的には、日本のIDであるJANコードです。グローバルな販売を計画している場合には、海外の同様規格であるEANコードやUPCコードなどとなります。

すると、コードを入力しただけで、同様の商品を売っているサプライヤーが、どこの地域にどれくらい存在するか、さらに各サプライヤーの売上状況を知ることもできます。

それだけではありません。類似商品の売上、それがどのような商品とセットで売れているのかといった情報を、アマゾン側からサプライヤーに提供する仕組みが整っているのです。サプライヤーにとってのビジネス機会の提案の例は、次のとおりです。

・売れ筋商品と類似した商品の出品提案
・海外への出品が容易(日本と同一の管理ページ)
・販売状況と在庫数の確認・提案(現在の販売状況を分析し在庫が足りなくなると判断した場合は提案。これは下記FBAを使っていなくても実施されています)
・FBA(Fulfillment by Amazon)で在庫保管、発送、返品、返金まで仕組みそのものをサービスとして提供

このような仕組みは結果として、最終顧客への価値にもつながります。掲載した商品が相場とあまりに乖離した価格設定であった場合、売れないことが事前にわかるためです。サプライヤーは出品をあきらめるか、あるいは価格を下げてライバルと競うか、いずれかの選択をすることになります。

つまり、サプライヤー同士が競争する環境が生まれることで、品質も価格も相場からずれているサプライヤーは、自然淘汰される環境が構築されているのです。