モノだけでなく、生鮮食料品、映画、音楽などへどんどん拡大

2つ目は、顧客が手にする商品が届けられるバリューチェーンのサイクルです。ECでは、配送や物流の設備、情報システムなどの固定費用に対するスケールメリットが働きます。バリューチェーンにおける情報連携、デジタル連携が向上することで、商品が届くスピード、タイミングをコントロールすることができるため、サイトの精度が向上し、EC体験をより心地よくさせることができるのです。

顧客にとっては、「安さと品ぞろえから欲しいものが見つかる」「手間がかからない」といった従来型の物理的な店舗の仕組みではトレードオフになってしまうという問題点が解決され、さらにこの体験の向上を継続させることが可能になります。

アマゾンにおいて取り扱う品目は、モノだけでなく、生鮮食料品、映画、音楽などへどんどん拡大しています。プライムサービスの場合には、会員価格がサブスクリプションで固定されているので、顧客の期待値が上がり続けたとしても、提供される商品・サービスを増やし続けることで、WTP(Willingness to Pay)、つまり顧客が支払いたい額を維持し続けることが可能になります。

アマゾン配達仕分け
写真=iStock.com/jetcityimage
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同時に、顧客体験が高まることで顧客数と利用者数が増えていくため、サプライヤーの WTS(Willingness to Sell)、つまり「ここで売りたい」という動機を高め、納入する際の値段が低くても多数のサプライヤーが集まります。そして品ぞろえが増えることで、顧客にとっての選択肢が増えるのです。つまり、これらに比例してWTPが向上する機会が増えていくことを示しています。

アマゾンが成長を続けるために大切にしている3要素

アマゾンは1994年の創業時にECを開始した際、書籍の返品率を4%にしました。当時アメリカの出版業界における返品率は40%以上でしたので、出版社というサプライヤーに対しても「価値の提供」という意味で貢献していたと言えます。

アマゾンでは、なぜこのような価値を、顧客やサプライヤーに届けることができているのでしょうか。そして、なぜ現在まで成長し続けているのでしょうか。

アマゾンにおける顧客中心の考えとこだわりを語ったミッション・ビジョンと、これに基づくリーダーシップ・プリンシプルが徹底されているということが言えます。これに基づくアマゾンの各事業や機能における担当者のリーダーが、自立して顧客への価値提供にカニバリゼーション(自社商品同士で売上を奪い合う状態)をいとわずに挑戦しています。

では、自立した多数の取り組みは、どのようにしてグローバルの環境でスケールすることができたのでしょうか。

以下の3つの取り組みが重要であると筆者は考えています。