マーケティングは全てアマゾンが担ってくれる

(3)行動に基づく受益者へのフィードバック

3つ目のポイントである行動に基づく受益者へのフィードバックは、サプライヤーへの価値で触れた、データをもとにした分析・レコメンデーションです。

桃谷英樹『コンポーザブル経営』(プレジデント社)
桃谷英樹『コンポーザブル経営』(プレジデント社)

サプライヤーに関しては、先述したとおりです。これまでは自分たちで行っていたマーケティングをアマゾンが一手に引き受けてくれるので、サプライヤーとしては、売れ筋商品をスピーディーに仕入れ、相場にマッチした価格で販売することに集中することができます。配送やアフターケアなどもアマゾンが行ってくれます。このように本来、小売事業者が注力すべき業務に自社の資源を集中することができるというメリットが大きいのです。

一方で、顧客に対しても、購入を検討していた商品が実際にどうかを知ることができます。判断材料という価値をアマゾンが提供してくれるため、新たな気づきと体験を得ることができます。場合によっては、別のより良い商品を発見してくれるという、まさに価値のアップデートも実現されているからです。

さらにアマゾンは、UI/UXをより良くするために、バナーの位置やテキストの大きさなどの最適化をABテストで徹底的に行っています。

このような取り組みの結果、アマゾンに行けば、単に商品を購入するだけではなく、まさに多くの体験をすることができるのです。この体験こそが顧客の求めているものであり、魅力ある体験を日々アップデートしているからこそ、アマゾンは顧客から支持され続けているのです。

表示が0.1秒遅れると、売上が1%減少する

アマゾンが提供する顧客体験価値の代表的存在は、購入・検索履歴などからおすすめ商品を提示するレコメンデーション機能でしょう。この機能を開発したアマゾンの元エンジニア、グレッグ・リンデン氏が、ABテスト(特定期間にページの一部分を2パターン用意して、どちらがより効果の高い成果を出せるのかを検証すること)を繰り返した結果、ある興味深い法則を発見していますので補足します。

それは「ECにおいて表示速度が0.1秒遅れると、売上が1%ほど減少する」というものです(図表2)。この法則は、単にECで注文ができるだけでなく、ユーザーの我慢の限界値に応えることも大事であることを示しています。

アマゾン:0.1秒表示が遅れると、売上が1%下がる

アマゾンを訪れたユーザーは、「より多くの商品をスピーディーに見たい。レコメンデーションやレビューなどの体験も、より多く、同じくスピーディーに体験したい」と考えて行動していることが、データで示されたわけです。

このようにして、顧客にとっても、サプライヤーにとっても、自社(アマゾン)にとっての価値向上の継続が実践されています。それはデータを取得し、分析し、実践を検証することに基づいて意思決定してくことであり、そのためのデータ構造、ID、APIなどの標準の徹底です。

アマゾンはフルフィルメントバイアマゾンの実践や広告の追加といった調整を継続し、成長しつづけています。このようなデータへの取り組みは、すべての企業が顧客に継続的に価値を提供し続け、ビジネスモデルをアップデートし続けるために必要なことではないでしょうか。