会場は異例の「オール人工雪」になる見込み

中国北部にある北京の冬は日中でも連日マイナスだが、スキー場が開けるほど雪は降らない。それでも、そんなところで冬季五輪をやると言い出したのはなぜだろうか。冬季大会の誘致決定以来、中国メディアや北京五輪組織委員会は「北京が夏季、冬季両方の五輪を初めて開催する都市」と自画自賛している。他の国が達成できていないことを一番乗りだと自慢すれば、自国民はきっと「中国は偉大だ」と思うことだろう。

北京は、中心街がほぼ平らだが、周辺にある郊外の町村を北京市に次々と編入したため、約1万6000平方キロと、日本の四国の9割ほどの面積を持つ。中心街から50キロほど北に行くと、中国屈指の歴史的遺産として知られる万里の長城がある。斜面が必要な競技向けの施設は、長城よりさらに北側にある2つの街に新たに設置された。

こうした郊外会場で開かれる屋外競技は、ほぼ全面的に人工雪で行われるのだという。ちなみに、北京周辺の2月の降水量は1カ月で4ミリほど、降水日数も月に3日ほどしかない。これでは人工雪に頼るのもやむを得ない。

フランスの通信社AFPは、「北京大会は、中国でも特に降雪量が少ない地域で行われる」と紹介。約300基の人工降雪機「スノーガン」を使って人工雪をまいた後、専用のトラックでゲレンデなどに広げる。人工降雪機自体は、過去の大会でも雪が足りない部分に補充したりするのに使われているが、会場のほぼ全体を人工雪で賄うのは例がないと指摘する。

スキー場で稼働する人工降雪機
写真=iStock.com/alexander uhrin
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「多くの首脳らに囲まれたい?」習主席の狙いは

温室効果ガスの排出防止へも配慮が必要だ。北京の組織委は「人工降雪機に使う電力は再生可能エネルギーで発電する」と言っているが、どうにもこうにも環境負荷が大きそうだ。リモート会場へは、万里の長城が築かれた山腹に全長12キロのトンネルをぶち抜き、新幹線「のぞみ」などよりも速い時速350キロで走る高速列車を使って、選手や大会スタッフらを運ぶことにした。

そこまでして、雪のない北京で開催する中国政府の狙いは何なのか。これまでの習近平政権の動きを見る限り、「開催国として最多メダル獲得数を目指す」といったスポーツ本来の目的よりも、「習国家主席が多くの首脳らに囲まれて五輪開幕を祝う」という映像を世界各国に配信することに重きを置いている可能性がある。

「外交的ボイコット」は中国にとって確実に政治的、外交的なダメージとなっており、何かしらの総括を行うことに迫られたとみられる。そこで、中国は「国賓の五輪への招待」に関する理屈付けをした。「主催国やIOCが行うものではなく、各国それぞれのオリンピック委員会(NOC)が自国の首脳に対して出席を推奨するもの」だと説明したのだ。