民主党がボロ負けすれば、逆戻り

バイデン政権の不人気や、民主党の支持率の低下を見て、すでに多くの識者が、2022年秋のアメリカ議会の中間選挙では民主党が負けると予測している。

中間選挙で大統領の党が負けることは珍しくない。しかし渡部氏は、勝てないのは想定内だが、それより深刻なのは、民主党が中間選挙で再起不能になるほど「ボロ負けする可能性がある」ことだという。そして、もしそうなった場合、アメリカはトランプ氏が主導権を握る政治に逆戻りするかもしれないというのだ。

共和党の内情を垣間見ることができたのが1月6日に下院で開かれたアメリカ議会襲撃事件1周年の式典だった。バイデン大統領はこの日、連邦議会議事堂で「われわれの歴史上初めて、選挙で敗れた大統領が暴徒の議会侵入によって、平和的な権力の移行を妨げようとした」と演説した。

1年前の事件直後、トランプ氏を激しく非難したベテラン共和党議員は数人いたが、ほとんどがその後数カ月の間にトランプ支持に戻った。結局、共和党議員ながらこの事件の調査特別委員会に加わったのはリズ・チェイニー氏(ワイオミング州選出)とアダム・キンジンガー氏(イリノイ州選出)の2人だけ。そして、1周年のこの式典に共和党から参加したのも、チェイニー氏と彼女の父のディック・チェイニー元副大統領だけだった。

共和党の支持者は、熱狂的なトランプ派と、共和党は支持したいがトランプ氏とは少し距離を置きたいと思っている人たちとに分かれている。式典に出席するとなると、かなり多くのトランプ支持者の支持を失うことになるため、それを恐れた共和党議員は出席できなかったのではないかと渡部氏は指摘する。

民主党の最悪のシナリオ

そんな状況で民主党が中間選挙で大敗すれば、トランプ支持者や、彼の視線を気にする共和党議員らが当選し、議会で一気に増える可能性がある。そして、それは事実上、再び共和党がトランプ影響下に置かれることを意味する。

「共和党にとってはその方が(議会運営が)やりやすくなります。共和党は、中間選挙の2年後の大統領選挙で、まとまってトランプを支持してもいいし、トランプを支持するような活きのいい候補を出してもいいわけです。そうなると(中間選挙後は)バイデン氏のレームダック化がさらに進み、民主党が共和党に勝てなくなる」と渡部氏は言う。まさに、民主党支持者にとっては最悪のシナリオだ。

今の議会では、民主党がかろうじて上下院の過半数を保っているとはいえ、下院は221対213、上院は50対50(民主党のハリス副大統領が議長)で、僅差で法案の可否がひっくり返るぐらいの勢力図だ。

そのせいで民主党は議会運営に苦労しているが、今度はその逆もありうる。つまり、民主党が敗北したとしても、負け幅を僅差で抑えることができれば、議会は共和党の思うようにはならない。ただし、選挙で大敗してしまったら、民主党は非常に苦しい立場に追い込まれる。