「好きなものを食べられるのは本当に自由なことだ」
「私はその場で訪問医の先生に電話しました。『本人が寿司を食べたいと言っているのですが、いいでしょうか』と聞くと、その先生は『好きなようにさせてあげて』と許可してくれて。今度は生活支援を行うホームヘルパーさんに連絡して『先生の許可が出たから、患者さんにお寿司を食べさせてあげてほしい』と頼んだんです。するとホームヘルパーさんは『宮本さん、まだそこにいてくださる? 私、今すぐ買ってきます!』と言ってくれたんです。本当にまぐろ寿司を抱えて、すぐ駆けつけてくれました。私たちはにぎり寿司1個を包丁で4分の1くらいに切って食べさせてあげました。そしたらおじいちゃんは、むせずに食べられたんです!」
男性は寿司を飲みこむと、「ああ、こんなにうまいものを……」とつぶやいた。
その様子を目の当たりにした宮本さんは感動した。「好きなものを食べられるのは本当に自由なことだ」と実感したのだという。「ビールも飲んでもらったんですよ。酔っ払っても、寝たきりですから」と、おどけてみせる。
「その誕生日の後、おじいちゃんは明らかに元気な日が増えました。89歳の誕生日は迎えられなかったものの、それから半年以上たって家で亡くなりました」
匂い、目にするもの、それまでと変わらない空間——家なら、誰にも邪魔されることなく自分のペースで日々を過ごせる。だから死の間際の痛みは和らぎやすく、本人は「こうしたい」という希望もわきおこる。
高齢者だけでなく、もっと若い人も「家で死にたい」という思いはある。
吉野清美さんは今から7年前、40代でがんを発症した。医師から「退院はさせられない」という言葉を聞いたが、「家に帰りたい」という気持ちに揺らぎはなかった。(続く。第8回は1月21日11時公開予定)