少し違う話かもしれないが、私の知っている大手IT企業では、入社したばかりの若い社員にすぐ「企業内ベンチャーを自分で起こさせ、その子会社の社長にする」ケースがある。
「入社いきなり社長」というのは、私などは責任が重くて嫌だなと思うが、見ていると彼らは嬉々として働いている。それも、多分まあまあ激務だ。肉体的にも精神的にも仕事漬けの毎日だろうが、積極的にやる気を出して嬉々として働いている感じに見える。
よく「現在の若者は働かない」とか「仕事が厳しいとすぐに辞める」と言われるが、この「入社いきなり社長」たちを見ていると、どうやら彼らが嫌なのは「仕事が忙しいということよりも、隷属的な下働き」なのではないかという気がする。
「ADという下積みを経て、先輩の仕事ぶりを観察して“盗む”ことでいつか一人前のディレクターになる」などという人生設計があり得ないのではないか。
であれば、業界に入りたての頃から「YDという一人前として扱われ、自発的に考えて仕事をしていく」というスタイルに転換していくことは、ひょっとしたら「若者のテレビ業界離れ」を食い止める可能性があるかもしれないな、と私は少し希望的に考えてしまうのだ。
「局員」と「下請け」の待遇格差を放置してはいけない
いずれにしろ、以上のような理由で私は今回の報道を期待感を持って見守っていきたい。ただ、最後に一つどうしても付け加えたいことがある。
それが「テレビ業界における圧倒的な給与・待遇格差」の問題だ。
もうみなさんよくご存じかもしれないが、テレビ業界では圧倒的にテレビ局員の給料が高い。制作会社の正社員と比べても、優に倍ちかい差が開いている実態がある。
テレビ放送というビジネスの売り上げが縮小し、かつてのような「濡れ手で粟」的な「おいしい商売」ではなくなった今でも、かつてほどではないとはいえ放送局の「局員」たちは世間一般より高額な給与と待遇を得ている。
一方で制作現場を実質的に支える制作会社やフリーランスのスタッフは、制作費の削減もあり待遇がどんどん悪化し、未来に希望が持てない現状は改善される見通しはまったく立っていない。
テレビのニュースで「同一労働、同一賃金」などという言葉をよく放送する割には、テレビ業界にはどこにも「同一労働、同一賃金」など存在しないのが実態だ。
こうした「制作費を削減してでも、自社の利益と従業員の高給を維持する」という放送局の姿勢が変わらない限り、本質的に放送業界を目指す若者が増えることはない。
そして、テレビ業界の地盤沈下とテレビ番組の質の低下も、改善することはないということはぜひ業界の偉い人たちに認識してもらいたい。