日本人は面倒くさい言葉が好き

では、遠い言葉であれば丁寧でよいとして受け入れられるのでしょうか? そうではないということが、別の調査からも明らかになっています。

国立国語研究所『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)
国立国語研究所編『日本語の大疑問』(幻冬舎新書)

先ほどの「このたび私たちは入籍させていただきました」という例のような、相手の関与がない用法になるほど人々の違和感が強い、という結果が出ています。また、「よろしいですか?」のような許可求めを含んだ言い方の方が好印象だとの調査結果もあります*1

つまり、ただ遠ざかっておけばいいわけではなく、相手との関わり合いも表したい(聞き手からすれば、表してほしい)という意識です。「させていただいてもよろしいですか?」という形は面妖ですが、「よろしいですか?」という許可求めを加えることで、相手とのつながりを表している形であることがわかります。つまり、これまた“遠近両用”の言葉なのでした。

なんとめんどくさい世の中よ! とも言いたくなります。しかし、日本語は、この種の面倒くささがどうも好きなようなのです。ちょうどいい距離感=敬意の度合いを求める日本人の旅は、どうやら終着駅がなさそうです。

*1:椎名美智(2021)『「させていただく」の語用論 人はなぜ使いたくなるのか』ひつじ書房

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