信頼されるビジネスマンになるためには、赤っ恥をかかないように日本語のトレーニングも必要だ。

「戦前は天皇を頂点とする上下の秩序が強固な時代でしたから、話し手が言葉を変える余地はありませんでした。戦後、言葉の変化は加速しましたが、敬語はあまり変わっていません。

ビジネスマンもOLも、仕事をちゃんと考えている人が一番気になっているのは、距離を置くことで相手に礼を示す敬語ではなく、どうすれば失礼なく親しみを表現できるかなのではないでしょうか」(言語学者・滝浦真人)

では、相手に親しさを伝えるためにどのような方法が考えられるのだろうか。滝浦さんに聞いてみた。

「例えば『まずはお礼まで』と締める定形パターンよりも、『本当にありがとうございました』のほうが受け入れる側の印象はよいと思います。成功の秘訣を書いた本などでも、とにかく『ありがとうございました』と発信することを勧めていますが、実際そうでしょうね」

謝罪の文書でも「最後までお読みいただきありがとうございました」と結ぶことは可能だ。

2つ目は「多少本筋と外れても私的に感じた相手に対する感覚を少し述べてみる」こと。会社になりきって書いた文章はどうしても無機質で温かみがなくなりがち。馴れ馴れしいと思われないよう、相手との間合い、距離を測ることはもちろん必要だが、相手にかかわらないでいるよりも、積極的に近づこうという方向に世の中は動いていると滝浦さんは見ている。

3つ目は、本文中に相手の名前を書いて呼びかけること。

「意識して使っている人はもういますね。見知らぬ人に『あの、すみません』としか言えないように、標準語には呼びかける作法が実はないのです」

滝浦さんが今の日本語のお手本かもしれないと思っているのは“ジャニーズ”の話す日本語だ。

「先輩後輩に厳しい芸能界なので、目上に対する物言いは叩き込まれるのだと思いますが、それを身につけつつも、可愛がってもらわなければ商売にならない。親しさを表現するのが上手なんですね。特にTOKIOの国分太一くん。“ですます調”と“タメ語”を絶妙に使い分けて距離をうまくコントロールしています。これはかなりの上級の言語テクニックだと思います」

間違った日本語で赤っ恥をかかないのはもちろん、ワンランク上を目指すなら、相手と近しくなるコミュニケーションとしての言葉に気を配ることも必要となるだろう。