※本稿は、曽野綾子『人生の意味』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
人の世の不平等に悩むあなたへ
「人生の勝ち負けに単純な答えはない」
人間の勝ち負けというのは、そんなに単純なものではありません。私たちが体験する人生は、何が勝ちで何が負けなのか、その時々にはわからないことだらけです。
数年、数十年経ってみて、もう死の間際まできて、やっとその答えが出るものも多い。永遠に答えが出ないことだってある。それが人生というものです。
「幸福を感じる力は不幸の中でしか養われない」
闇がなければ、光がわからない。人生も、それと同じかもしれません。幸福というものは、なかなか実態がわからないけれど、不幸がわかると、幸福がわかるでしょう。だから不幸というのも、決して悪いものではないんですね。
荒っぽい言い方ですが、幸福を感じる能力は、不幸の中でしか養われない。運命や絶望をしっかりと見据えないと、希望というものの本質も輝きもわからないのだろうと思います。
人間の完成は中年以後
「すばらしいのは、人生が未完であること」
人間の完成は中年以後にゆっくりやってきます。それは、人生が「生きるに価するものだった」と人が言えるように、その過程を緩やかに味わうことができるようにするためではないでしょうか。
早く完成すれば、死ぬまでが手持ち無沙汰になってしまう。そんな運命の配慮に、私は中年以後まで全く気がつきませんでした。
すばらしいのは、人生が未完であるということ。なぜなら人間の存在そのものが不完全なのですから、未完であり、何かを断念して死に至るということは人間の本性によく合っているのです。