「日本は前に進むことをやめない国だ」

日本の株式市場が長い低迷から抜け出せないなか、なぜバフェットはこれだけ自信を持って日本企業への投資を言い切れたのでしょうか。彼は、会見でこう話しました。「私だけではないと思いますが、世界中の人たちが今回の震災および原子力発電所事故後の日本を見て、やはり日本は前に進むことをやめない国だなという気持ちを新たにしたと思っています」

震災を経てもなお、バフェットの日本に対する見方は変わっていませんでした。社会や消費者にとってなくてはならないものをつくる会社で、長期にわたって競争力を持つことのできる企業であれば喜んで投資したい、というのがバフェットの考えでした。

株式市場でディスカッション
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コロナ禍のなかで日本の五大商社に投資

それから9年近く経った2020年8月、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の五大総合商社の株式取得を発表したことが大きなニュースになりました。

金額にして約60億ドルの投資です。バフェットにとっては、日本への投資としては過去最大級のものでした。しかし、その後、5社すべての株価が値下がりしたことで、「なぜバフェットは今さら日本の商社に投資するのか?」という疑問の声が聞かれるようになりました。バフェットは自らの口ではっきりとその理由を説明していません。

世界的なコロナ禍によって商品需要が損なわれ、有り余ったお金がバリュー(割安)株よりもグロース(成長)株へと向かうなか、日本の商社株は利益を上げていても、株式市場では取り残された存在となりました。しかし、ワクチン開発などで少しずつ落ち着きを取り戻していた世界で、忘れられていた分野の割安株が再評価されるようになるのではという期待から、バフェットは投資に踏み切ったのではないかと考えられています。

実際、バフェットは5%の持ち株比率を10%近くに高める可能性もあると認めたうえで、「将来、お互いに利点があることをしたい」(『日経ESG』、日経BP)とも話していただけに、その可能性を感じていたのでしょう。