第2に、子どもを無料あるいは割引することで親つまり大人の利用を誘発するという効果だ。子どもの運賃・料金分は減収になるが、キャンペーンにより普段利用しない層を呼び込めればトータルでは増収になる。利用者の減少で輸送力には余裕があり、これを空席のまま走らせても機会損失となってしまう。イールドマネジメントの観点からしても合理的な取り組みと言えるだろう。

衝撃を与えた小田急の「全区間一律50円化」

第3は10~12月という利用者が比較的少ない時期、いわゆる閑散期の需要喚起だ。今回のキャンペーンはJR東海、京王とも年末の繁忙期前までの期間限定であり、あくまでも輸送力に余裕のある閑散期に限定した取り組みとなる。ただ結果が出れば、今後も閑散期や比較的利用の少ない特定列車などで同様のキャンペーンが行われる可能性はあるだろう。

一方、期間限定ではなく恒常的な取り組みとして鉄道関係者に衝撃を与えたのが、11月8日に小田急電鉄が発表した小児IC運賃の全区間一律50円化だ(ちなみに各社とも小学生は小児運賃、未就学児は原則無料。なお小児用PASMOは年齢が確認できる公的証明書等を提示することで、駅やバス窓口などで購入できる)。2022年春の実施を予定しており、あわせて通学定期券、フリーパスなどの企画券についても小児運賃・料金を改定するという。

現在、最長区間となる新宿から小田原までの小児運賃は445円。これが約9割引きの50円になるのだから驚きだ。ちなみに最短区間は63円。小田急電鉄によれば無料化も検討したが運賃制度上、他社線との乗り継ぎ割引が設定可能な10円以上の金額にする必要があったため、往復で100円という切りがよく、分かりやすい値段として50円にしたと説明する。

この他にも「将来を担う小学生のお子さまのお出かけをより身近なもの」にするため、今年5月に試行した、子ども連れでも気兼ねなく利用できる「子育て見守り車両」の常設化や、駅でのベビーカーシェアリングサービスの本格導入も予定しており、自治体や他企業とも連携しながら「子育てしやすい沿線」を目指していくとしている。

回復が見込めない「定期券」から「定期外利用」へ

小田急の狙いは何なのか。その前に大手私鉄の置かれた現状について確認しておくと、小田急を含む15社の2021年度上半期の旅客運輸収入は、軒並みコロナ前から3割前後減少(2019年度同期比)。鉄道やバスを含む運輸セグメントの営業損益は、東武鉄道を除く全社が赤字となった。

そのうち定期券利用者、つまり通勤・通学利用者の運賃収入である「定期収入」は、最初の緊急事態宣言が発出された昨年第1四半期(4~6月)に、2割から3割減少(同)したまま、ほとんど横ばいで推移している。