「100万円を預けてくれたら、10倍にして返せる」

そうすると、男は彼女の気持ちを見透かすように、電話で次のような話を持ちかけてきます。

「もし自分に100万円を預けてくれたら、あなたのお金を投資して10倍の1000万円にして返してあげられる」

心が弱っていた彼女は、ロレックスで騙された被害金が戻るなら、との思いで、お金を用意します。数日後、彼女は30代男と喫茶店で会い、100万円を渡してしまいます。

カフェでホットコーヒーのカップを持つ手元
写真=iStock.com/Farknot_Architect
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自称弁護士が巧妙なのは、その時の対処法です。彼女がロレックスの被害相談のために警察に行くことを話すと、自称弁護士は止めることなく、いろいろとアドバイスします。例えば、こんなふうに言ったそうです。

「もし、警察が被害届を受理しないと言ったときには、その理由を聞いてください。また、担当者の名刺は必ずもらってください。それに、男の前科前歴の有無も聞いてください(女性は男の免許証コピーを持っており、名前を把握)。警察には、男と最後に喫茶店で会った日に、男が引っ越していたことがわかったことなどを、詳しく話してください」

つまり、騙す意図があって彼女と会っていることを強くアピールするように促しています。このあたり、法律に精通していることがうかがえます。さらに「民事では、僕が担当して頑張るけれども、警察にはぜひとも刑事事件として扱ってほしい」と、それらしい話も付け加えます。

警察への応対レクチャーまでしてくれるのですから、まさか彼女自身、2度目の詐欺行為に遭っているなどとは疑うはずもありません。

一連の話を聞いて、筆者は「本当の弁護士が契約書面も渡さずに、着手金ではなく、投資金名目でお金を預かるということをするはずがないと思います」との見解を述べました。

しかし、彼女はいまだ信じられない様子です「でも、すごく親身になってくれました! 彼は『女性を騙すなんて、絶対に許せない! あなたが貯めてきた大切な貯金を取るなんて』と言ってくれたんです」

彼女がここまで信じてしまうのは、なぜなのか。実は、この男のアフターフォローが事細かなところにまで及んでいたからです。

最初の男からロレックスの代金の被害に遭った時、彼女は40代の男のマンションを訪れて、管理人からすでここを退去していることを聞き出し、警察や回収会社などが家を訪れたことも把握しました。

その後、この自称弁護士とともに、440万円を騙し取った男が借りていたマンションのオーナーのいる住所へ女性とともに出向いています。 そこで、オーナーの連絡先を知り、電話をかけて「自分は弁護士だ」と名乗り、オーナーから「家賃を滞納して、マンションを出て行った」事実を聞き出していました。この様子をみて、彼女はますます自称弁護士を信じてしまったのです。

「でも、もし本物の弁護士なら、フルネームを伝えるはずです。名刺ももらっていませんよね。それにお金を預かった時に、書面も渡さないのはおかしいです」
「詐欺をするような人にはみえませんが……、やはり、違うのでしょうか?」

彼女は、“信じてきたものを手放したくない”そんな思いのなかで揺れ動いているように思えました。