「僕は弁護士なので、440万円を取り戻してみせる」

「詐欺や悪徳商法の取材をしてきて、これまでにたくさんの弁護士さんと知り合っていますが、身元を明かさない弁護士さんなど一人もいませんでした」

筆者がこう説明しても女性はまだ相手の男性を信じている様子でした。こちらがこれ以上、否定し続けると心が頑なになってしまい、聞く耳を持ってくれなくなる恐れがあったので、彼女自身がおかしさに気づけるように、経緯を詳しくお聞きしました。

「どこで探した方でしょうか? ネットで検索したのでしょうか?」
「いいえ、マッチングアプリで知り合いました」
「マ、マッチングアプリで、ですか……」

筆者は言葉を失いました。自称資産家によるロレックスの案件に続き、今回の自称弁護士案件も、きっかけはSNS。ネット上では何者かになりすますのは簡単です。偽弁護士であることが、かなり濃厚になってきました。

「では、この男性のアプリでの自己紹介を見せていただけますか?」
「はい」

見てみると確かに、「30代」で「弁護士資格を持っている」の記述がみられます。女性はこの言葉を信じたのでしょう。

ロレックス ディープシーの側面
写真=iStock.com/felixmizioznikov
※写真はイメージです

この男に相談するに至った経緯は次のようなものでした。

女性は相手が弁護士だと思い、「時計の代金として440万円をある40代の男性に払ったけれど、なかなか商品が送られてこない」という話をすると、男から思いがけない言葉が返ってきます。

「あなたは詐欺に遭っているかもしれない」
「そうなのですか!」

男は「僕は弁護士なので、お金を取り戻してみせる。その(440万円を振り込んだ先の)男のLINEのIDを教えてほしい」と言います。彼女が連絡先を教えると、後日、この弁護士を名乗る男から、「毎日『お金を返すように』との連絡をしている」とのメッセージが届き、40代男とのやりとりのスクリーンショットが送られてきます。

「詐欺に遭っているというショックな思いを抱えていたので、その時の彼の行動は、とても力強く、私に寄り添ってくれているように感じました」と彼女は当時を振り返ります。