サムスン電子の姿勢に学ぶべきことは多い

今、わが国は、国を挙げて新しい産業を育成する必要がある。わが国の経済は、世界経済の速い流れに十分に対応できていないからだ。特に、わが国産業の依存度が高い自動車のEVシフトへの遅れは深刻だ。

日の丸と勧告の太極旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
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韓国では、サムスン電子が米国で大規模な半導体工場の建設を発表した。同社は、加速化する世界経済の環境変化に迅速に対応し、最先端分野での成長実現により強く取り組もうとしている。また、サムスンSDIは車載バッテリーの生産能力を世界各国で引き上げる。

その姿勢にわが国企業が、虚心坦懐に学ぶべきことは多い。サムスングループ(サムスン)は、事業ポートフォリオに占める脱炭素とデジタル化という2つの集合の共通集合を極大化し、世界経済の“メガチェンジ”を成長加速につなげようとしている。

わが国に必要なことは、今ある強みに磨きをかけて脱炭素やデジタル化分野で新しい需要(モノやサービス)を創出する企業を増やすことだ。そのためには、民間企業の取り組みに加えて、政府が最先端分野での個人や組織の取り組みをより積極的にサポートすることが欠かせない。それが、“自動車一本足打法”と揶揄やゆされるほど、自動車への依存度が高まったわが国経済の先行きに決定的な影響を与える。

再エネ利用の遅れも自動車産業に打撃を与える

1990年代初めに資産バブルが崩壊して以降、わが国経済は自動車、特にハイブリッド車(HV)の生産に依存して景気を持ち直してきた。しかし、それは徐々に難しくなり始めている。

まず、世界経済全体で脱炭素が加速し、エンジンを搭載した自動車の利用を減らしてEVへと移行する国が増えている。EV生産は、デジタル家電のようなユニット組み立て型に移行し、わが国企業の強みであるすり合わせ技術の重要性は低下する。それに伴って、わが国が裾野の広い自動車産業の構造を維持することは難しくなり、所得・雇用環境は不安定化する恐れがある。

自動車依存のわが国にとって、再生可能エネルギー(再エネ)利用の遅れも深刻だ。欧州では洋上風力発電の増設などによって、カーボンニュートラルなバッテリーやEVの生産体制が強化され、ライフ・サイクル・アセスメントや炭素の国境調整の導入も目指される。しかし、2030年度時点でわが国の電源構成の19%が石炭火力と見積もられている。それは国内での自動車生産にマイナスの影響を与えるだろう。