日本が環境変化に対応できない深刻な理由
デジタル化の遅れも深刻だ。わが国には、米中のような大手ITプラットフォーマーが見当たらない。それは、昨年の特別定額給付金の手続き混乱に加えて、ワクチン接種証明アプリの開発が遅れた主たる要因だ。デジタル化の遅れは自動運転やネットとの接続性など自動車のイノベーションにもマイナスだ。
なぜ、これほどまでにわが国経済全体で環境変化への対応の遅れが深刻化したか。一つの要因として、1990年代初頭の資産バブル崩壊後にわが国全体で過度なリスク回避の心理が強まった影響は大きい。リスクを恐れるあまり、わが国の政府も企業も個人も、競争原理の発揮による成長期待の高い分野での取り組みを強化することよりも、その時々の雇用を守ろうとするマインドが強まった。その状況が長く続いた結果として、わが国全体が世界経済の環境変化に取り残されたように見える。
既存事業→成長産業へ資源を配分してきたサムスン
わが国企業とは対照的に、韓国では、脱炭素とデジタル化への対応を強化して、さらなる成長を目指そうとする企業が多い。わが国企業にとって、韓国企業から学ぶべきことは多い。
特に、韓国最大の財閥であるサムスンの組織運営力は示唆に富む。サムスンは、世界経済の環境変化を機敏にとらえて、既存事業から成長期待の高い最先端分野へ、ダイナミックに経営資源の再配分を行う経営体制を構築してきた。ポイントは、過去の成功体験に浸ることなく、常に、貪欲に成長の実現に取り組むアニマルスピリットだ。
脱炭素分野ではサムスンSDIが、スマートフォンなど民生用のバッテリーや蓄電用バッテリーに加え、車載バッテリーの生産能力を世界規模で急速に強化している。具体的にはハンガリーでEVバッテリーを生産し、米国ではイリノイ州で工場建設が検討されている。米フォード、新規株式公開を果たしたEVスタートアップのリヴィアン、さらにはステランティスなどが同社から車載バッテリーを調達する。