国内の雇用の大規模創出にも成功し、今後5年間の民間部門による投資は608億ポンド(約9兆円)にのぼると見積もられている。イギリス政府が描いたストーリーが着実に現実のものになりつつある。
イギリスの洋上風力産業は成長を続け、ようやく形になった。脱炭素時代の到来というまたとないチャンスとなった。次なる一手は機動的な国際展開ということになる。聞こえはいいが端的に言えば、産業競争力を背景とした経済的侵略だ。
そこで洋上発電を国家プロジェクトで進める日本は、絶好の狩り場として浮上する。
同じ島国なのに…なぜ日本は風力発電に乗り遅れたのか
日本は長らく再エネを軽視してきた。先述の通り、電源構成は火力発電が全体の7割超を占め、再エネ比率はわずか18%に過ぎない(2019年度)。水力を除けば1割程度だ。日本のエネルギー政策は福島第一原発事故まで「原発脳」であった点も大きいだろう。
その点、イギリスは北海油田や石炭資源がありながら、有限性に着目し、早い段階で再エネ(特に洋上風力)に目をつけ、脱炭素という追い風が吹くまで自国産業を育成し続けた。同じ島国でありながら日本が風力発電に乗り遅れ、差をつけられた理由はここにある。
日本はようやく「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」として風力発電、特に洋上風力に着目し始めた。だが、このままでは王者であるイギリスの狩り場に成り下がる恐れがある。理由を3つに整理する。
撤退を続けた国内企業
一つ目は、そもそも対抗できる国内メーカーがおらず、洋上風力の導入には外資の知見を頼らざるを得ない点だ。世界では、デンマークのオーステッド、ドイツのRWE、スウェーデンのバッテンフォールなどが洋上風力発電事業者の上位を占めており、そこに日本勢の名前はない。
日本では、少し前には三菱重工、日本製鋼所、日立製作所の三つのメーカーが風力発電機の国内製造を行っていた。しかし、市場の成長が遅れたこともあって順次撤退し、2019年春に日立製作所が製造を終了したことで国産風車メーカーは完全に無くなった。発電に必要不可欠な風車に関しても日本勢は完全撤退している。
洋上風力について日本勢の弱さを象徴するエピソードもある。福島県沖でオールジャパンの体制で組まれた福島洋上風力コンソーシアムが2013年以降、洋上風力の実証実験を行ってきた。
しかしコストが高い上に、不具合続きなどの影響で稼働率は低迷。採算を見込めず撤去した。約600億円もの巨費をつぎ込みながら、「データを収集する目的は果たせた」という政府の弁ではあまりに寂しいだろう。