なぜ人はDVを隠すのか

多くの場合DVは、加害者はもちろん、被害者もそれについて言及しようとしない。まさに「家庭のタブー」の代表格だと言えよう。

だが、なぜDVは、被害者もそれについて言及しようとしないのだろうか。

その理由には、以下の4点が考えられる。

① 洗脳 「怒らせるお前が悪い」など、加害者から被害者が原因だと洗脳・刷り込みをされているため
② 依存 加害者と被害者が依存関係にあり、暴力や暴言の後にハーレム期を迎えると、被害者が「自分は愛されている」「(加害者が)反省してくれたからもう大丈夫」と思い、加害者を許してしまうため
③ 羞恥心 精神的DVや経済的DV、社会的DVなど、目に見えないDVや、身体的DVであっても、治療が必要なほどのけがではない場合、被害者は「おおごとにしたくない」「恥ずかしい」気持ちから、「単なる夫婦喧嘩だ」と思い込むため
④ 孤立 社会的DVにより交友関係を狭められた被害者は、外に助けを求められないため

特に、橋本さんのようにDV加害者が妻の場合、夫は羞恥心から、なかなか外に助けを求められないのではないだろうか。現に、橋本さんは、弁護士に依頼した後、妻からの報復をおそれて警察署へ相談しに行ったが、「何かあってから呼んでくれる?」と冷たく言われたという。

「きっと、『男のくせに情けないな』くらいにしか思われなかったのでしょう。『何かあったらすぐに連絡くださいね』と言ってくれたら、それだけで安心感が違います。やはり、長年DV加害者に支配されてきた被害者の恐怖は、経験した者にしかわからないのだと思いました」

助けを求めて延ばした手の影
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経済的DVを受け、自由にできるお金もなく、社会的DVを受け、親しい友人知人との交際を禁止されていた橋本さんは、長年の精神的DVによる支配や恐怖から、極限まで声を上げることができなかったのだ。