<コロナ発生源の独立調査を主張したオーストラリアに、中国政府は前例のない、経済全体に関わるほどの報復措置を仕掛けたが影響は驚くほど小さかった。これを見て、オーストラリアに追随する国々も出てきている:ジェフリー・ウィルソン(西オーストラリア大学パース英国アジアセンター研究部長)>
オーストラリアと中国のコンテナ
写真=iStock.com/Nerthuz
※写真はイメージです

事の発端は、オーストラリアが「傲慢にも」、新型コロナウイルスの発生源について独立した調査をすべきだと主張したことだった。中国はこれに激怒し、前例のない大規模な通商上の報復措置を取った。農産物から石炭まで、多分野に及ぶオーストラリア産品の輸入を凍結。両国の経済関係はあっという間にデカップリング(切り離し)の憂き目を見た。

とはいえ中国の狙いが、オーストラリアの「反抗」に経済的なお仕置きをし、それを見せしめにして、他の国々にも「逆らったら痛い目に遭うぞ」と警告することだったのなら、その思惑は見事に外れたことになる。

中国の制裁がオーストラリア経済に及ぼした影響は今のところ驚くほどわずかだ。オーストラリア経済の速やかな回復は、対中デカップリングのコストが想像よりはるかに低いことを示唆している。中国の流儀に違和感を抱いている他の国々も、その事実に気づいたはずだ。

「暗黙の了解」の上に

豪中関係は長年、根底に緊張をはらんできた。経済的なつながりは深まる一方で、政治的には深い溝が横たわっている。民主主義や人権といった価値観の違いに加え、オーストラリアは中国がインド太平洋諸国に好戦的な姿勢を強めていることを懸念している。一方の中国は、オーストラリアが反中に傾いていると不満を募らせてきたが、両国の間には過去数十年、暗黙の了解があった。急速に拡大する経済関係を優先し、政治的な相違とは分けて考えよう、というものだ。

これはうまく行った。2009~2019年にオーストラリアの対中輸出は3倍に伸び、年間1490億オーストラリアドル(約1100億ドル)に達した。その約半分を占めるのは鉄鉱石で、中国の建設ブームを支えてきた。残りの半分は石炭、天然ガス、農産品など。加えて、コロナ前まで毎年大勢訪れていた中国人留学生と観光客もオーストラリアにとっては大事なお客さまだ。