感染症対策から、新しい働き方の実現へ

ここまで読んで、私の主張を古い価値観の人が企業を擁護しているかのように捉えている人もいることだろう。最後まで読んでほしい。私は今、どんなテレワークを実施するかを模索するべきだ、さらには新しい働き方をいかに確立するかこそ大切だと考えている。

3点目の論点「感染症対策から新しい働き方の実現へと、テレワーク実施の目的を変えなくてはならないのではないか」について考えてみる。

そもそも、わが国でのテレワークの普及は二重、三重にこじれてしまった。「働き方改革」が大合唱されていた頃は、どちらかというとワークライフバランスの充実、特に育児や介護と仕事の両立の文脈で語られていた。東京五輪を前にした段階では、通勤による混雑緩和が目的だった。

しかし、それまでなかなか普及しなかったテレワークを劇的に広げたのは、新型コロナウイルスショックだった。「働き方改革」が叫ばれ、五輪に向けた準備が進められていたのにもかかわらず、新型コロナの感染拡大が話題になり始めた最初の緊急事態宣言前の20年3月における東京都のテレワーク実施率は24.0%にすぎなかった。テレワークは感染症対策と、経済活動の両立という目的から広がった。

単にコロナ前に戻せばいいという話ではない

コロナ感染がいったん収束に向かっている今の局面では、単にテレワークをやめるかどうか、出社日を増やすというだけの議論に矮小化せず、これからの議論が必要だ。企業の目指す方向とのマッチこそ、大事な論点だ。もともと議論していた働き方改革などの論理と合わせて議論したい。コロナ感染の収束で、働き方が元に戻るということは、働き方改革が虚構にすぎなかったと宣言するようなものだ。

ここで、考えたいのは、そもそもテレワークとは在宅勤務とイコールではないということだ。本来、テレワークは在宅勤務の他、直行直帰型のモバイルワーク、さらにサテライトオフィス勤務に分けられる。

行動が緩和される中、特に私はサテライトオフィス勤務の可能性に期待している。サテライトオフィスも、自社の拠点、契約したシェアオフィスなどあり方はさまざまだ。出勤再開で片道1時間以上の通勤はつらい。しかし、30分以内で、近くのサテライトオフィスへの出勤なら負担はだいぶ軽減される。自宅が仕事をする場として必ずしも快適なものではないという人もいる。ウォークインクローゼットで仕事をする人、仕事用ではない食卓のテーブルと椅子で仕事をする人もいる。そもそも部屋が狭いという人もいる。シェア型のサテライトオフィスの場合、人脈が広がる可能性もある。

本来、検討期、導入期、普及期、変革期と4つのプロセスを経るはずのテレワーク推進が倍速で行われてしまった。そして、いまだにテレワークをまったく行っていない企業もある。単にコロナ前に戻すかどうかという話ではなく、企業の向かう方向性、組織風土、課題などと合わせて、働き方をデザインすることが必要になるだろう。ただ、これは簡単ではなく、試行錯誤の繰り返しである。