ネットフリックスの韓国ドラマ『イカゲーム』が全世界でヒットしている。なぜ人々の心をつかんだのか。ジャーナリストの松谷創一郎さんは「『イカゲーム』で行われているデスゲームが、現実の競争社会の劇画として受け入れられている可能性がある」という――。
Netflixドラマ『イカゲーム』
画像=YOUNGKYU PARK/Netflixメディアセンターより
Netflixドラマ『イカゲーム』

Netflixにとっては「満願成就」と言える作品

韓国ドラマ『イカゲーム』がNetflixで公開されて2カ月近くが経った。全世界で火がつき、同サービスで史上最大のヒットになったのはすでに多く報じられているとおりだ。

非英語作品がこれほどのグローバルヒットとなった例は過去にはない。それは、Netflixにとっては満願成就と言える結果だろう。なぜなら、Netflixが当初から目指していたのは、各国から発信されるコンテンツをインターネットで全世界の隅々に届けるグローバル展開の徹底だったからだ。

『イカゲーム』のなにが世界中の人々の心を掴んだのか──。

一見、デスゲームとしては凡庸な設定

『イカゲーム』の主人公は、貧しい中年男性ソン・ギフン(イ・ジョンジェ)だ。ある日、彼は地下鉄で会った謎の男に誘われて、勝てば大金を得られるゲームに招かれる。

行き着いた先には、大金目当てに集まった456人がいた。彼らとともに挑む最初のゲームは「だるまさんがころんだ」。だが通常の子どもの遊びと違い、このゲームは負けた瞬間に射殺される。こうしてギフンは死のゲームに放り込まれる──。

『イカゲーム』にはふたつの大きなポイントがある。

ひとつは、生死をかけた争い=「デスゲーム」を描いた作品であることだ。

登場人物が生死をかけたゲームに放り込まれるデスゲームは、90年代後半以降に全世界で一般化したジャンルだ。その大きなきっかけはカナダ映画『CUBE』(1997年)と日本映画『バトル・ロワイアル』(2000年)のヒットだった。その後、日本のマンガとその影響を強く受けたハリウッド映画を中心にさまざまなバリエーションを生み出しながら拡大していった。日本は「デスゲームの本場」とも言える国だった。

『イカゲーム』もデスゲームの文脈上に位置する。主人公の立場は福本伸行のマンガ『カイジ』シリーズと似ており、登場するゲームも金城宗幸原作・藤村緋二作画『神さまの言うとおり』(2011年)と共通するシンプルなものであるように、実はこの設定自体に斬新な点はない。一見デスゲームとしては凡庸だ。