従来のデスゲーム作品の魅力は「不謹慎さ」だった
だが、日本を中心とする従来のデスゲーム作品とは、決定的に異なった点があった。それは、デスゲームと(韓国)社会をしっかりと結びつけていたことだ。多くが映画化された日本のデスゲームマンガに見られなかったのはここだ。
たとえばそれは、同じくNetflixオリジナル作品として映像化された『今際の国のアリス』(2020年)と比較してもわかるだろう。この作品で、登場人物は本人が望んでないにもかかわらず、突然異空間に放り込まれてデスゲームに参加させられる。
それは奥浩哉原作の『GANTZ』やハリウッド映画の『エスケープ・ルーム』(2019年)などでも同様だ。デスゲーム作品の多くは、複雑なゲーム性の妙味やそうしたゲームに翻弄される登場人物の葛藤を描くに留まってきた。設定もSFや社会と隔絶されたホラーであるケースが目立ち、そこでは脱落者の死は軽んじられ、むしろその不謹慎さが最大の魅力とも呼べるものだった。
ドメスティックな要素こそが価値を生じさせている
それらに対し、『イカゲーム』はきわめて実直にデスゲームを扱う。エリート証券マン、ヤクザ、外国人労働者等々──登場人物たちが抱える事情と大金を必要とする動機がしっかりと描かれる。従来のデスゲーム作品では覚えなかった登場人物への感情移入が強く生じるのはこのためだ。
なかでも特徴的なのは、韓国特有のキャラクターも登場することだ。脱北者であるカン・セビョク(チョン・ホヨン)は両親が脱北に失敗し、弟は養護施設に入っている。彼女にとって、ゲームで大金を手にすることは厳しい現実を脱するための切実な手段だ。韓国固有のドメスティックな設定がしっかりと取り入れられている。
これは映画『パラサイト 半地下の家族』同様に、グローバルに流通するコンテンツにおいてドメスティックな要素(ここでは分断国家)こそがむしろ価値を生じさせることを示唆している(逆に、ドメスティックな要素をドメスティックでのみ流通させると「ガラパゴス化」となる)。