安い給料でも若手が猛烈に働いた事情
市場価値で給与が決まったとすればこうなるわけですが、戦後の日本の実際の給与カーブはそうなっていませんでした。
赤の点線が実際の給与カーブを描いています。新卒一括採用で入社した若い社員の初任給は高くはありません。まだ、仕事をしたこともないのですから当然です。若い人たちはさまざまな学習を通じて、ビジネスに必要なスキルを身につけていきます。順調に学習を重ねていけば、市場価値も上がっていきます。しかし、日本では、給与は市場価値ほど上昇しません。
ある年齢までは、市場価値よりも低く抑えられているのです。赤く示しているように、市場価値と比べると受け取る給与は過小なものとなります。それでも、若い頃には多くの人は、企業を支えるために働いたのです。社内のネットワーキングのために行きたくない飲み会にも参加し、夜遅くまで残業したのです。
なぜでしょう。それは、ある年齢を超えると実際に受け取る給与が、自分の市場価値に見合った給与よりも高くなるからです。図表1で青く示されているところです。この過剰な給与部分があるために、若い頃に市場価値よりも過小な給与であったとしても頑張るのです。
転職は損…社内で使えるスキルが一番重要だった
社内では昇進競争もあります。昇進すればもちろん、過剰な給与部分は大きくなります。社内では24時間、365日とは言いませんが、いつも働きぶりを見られています。その競争の中から、良い人材が選抜されていくのです。これは社内に労働市場があるということであり、内部労働市場と呼ばれています。
内部労働市場が発達すると、人々は当然、社内での評価を気にして行動します。どこの企業でも通用する汎用的なスキルはあまり重視されません。例えば、財務会計やファイナンス、法務、英語やコミュニケーションなどは汎用的なスキルの代表的なものです。MBAをとっていても昇進が早まるわけでも給料が上がるわけでもなかったのです。
汎用的なスキルよりも、その産業や社内に固有のスキルの方が高く評価されてきました。自社の製品やサービスに固有の知識やスキル、あるいは、社内の人的なネットワーキング(部長は誰と仲が悪いか、どんな食事が好きかなど)もこれに当たります。ここで組織特殊的な言葉や社内の常識が染み込んでいくのです。
組織での評価の方が市場価値よりも高くなる人が多くなります。そういう人は転職しようとはあまり考えません。給与が下がってしまうからです。