厚生労働省の調査によると、新入社員の約3割が3年以内に会社を辞めている。イノベーション研究の国際賞「シュンペーター賞」を受賞した早稲田大学商学学術院の清水洋教授は「『若い人の辛抱強さがなくなった』などと言われるが、完全に的外れだ。従来の働き方を続ける日本企業が見放されているからだ」という――。(前編/全2回)
社内の言葉、常識が染み付いた日本の会社員
異業種の企業幹部が集まる研修でモデレーターをした時のことです。どうも話が噛み合わないのです。モデレーターが悪くて、打ち解けていないのかと思いましたが、初対面のわりには雰囲気は悪くありません。
会話を聞いてみると、話している言葉がかなり違うのです。お互い、自分のビジネスは説明しているのですが、かなりの程度、その企業の言葉で語られているのです。もちろん、経営幹部ですから、全く理解し合えないわけでありません。しかし、自分のビジネスや組織の課題を説明する時に、自分の組織固有の言葉をつかうのです。共通言語が少ないのです。
また、「じゃあ、こうすれば良いのではないですか?」と他の人に問われた時に、「いやいや、わが社はこういう事情がありまして……」と特殊事情として説明するのです。本当にそれは組織固有の特殊事情なのでしょうか。気前は良く、ユーモアもあるのだけれど、自分の組織の話となるとやや頑固になるのです。
同じ組織で長い間過ごしていると、組織特殊的な言葉や社内の常識が自然と染み付いてきます。そのような言葉や固有の事情が成立してきた文脈もあるはずです。合理性があって成立していることでしょう。
しかし、そのビジネス、あるいはその組織がなくなってしまうような状況になったら、組織特殊的なスキルばかりを磨いてきた人たちはどのような行動をするのだろうと考えたのです。もしかしたら、新しい変化を推し進めるのではなく、むしろそれをなんとかして止めようとしてしまうかもしれません。