部下のミスを増やした“独りよがりのマネジメント”

2003年には本社の美容教育グループへ配属され、全国の美容部員を育成するインストラクターを務めた。10年後に教育課のチーフを任されたが、当時は空回りするばかりだったと振り返る。

「新しいことに取り組む姿勢をメンバーに見せたい、他部署から良く見られたいなどと背伸びをしていたのだと思います。独りよがりになって心に余裕もなく、チームの人間関係はだんだん悪化してギスギスしていきました」

十数名の部下は全員女性で、単身赴任している人や子育てしている人など家庭の事情を抱えるメンバーが多かった。しかし余裕がなく職場の人間関係に悩んでいる人の話も聞いてあげられず、優しい言葉をかけることはなかった。部下との距離は遠ざかっていき、何か指示しても「はい、わかりました」で終わってしまう。チーム内で仕事のミスも増えていった。

「その部署では教材テキストやツールの作成をしており、わずかな誤植でも刷り直しの費用がかさむ。私は会社に損害を与えてしまうことを怖れ、失敗してはいけないと気が張りつめていました。何かミスが起きる度、なぜ私の気持ちが伝わらないのか、同じ過ちを繰り返すのか……と落ち込み、そのいら立ちがメンバーに伝わっていたと思います」

「あなたの部下がいちばんかわいそう」

当時は新製品が出ると、全国のインストラクターにテレビ会議で伝達していた。山本さんはその会議で商品の説明をしていたが、あるとき同僚から「テレビ会議の録画を見た方がいいよ」と忠告される。自分ではきちんとやっているつもりだったので「何で?」と思うが、実際に録画を見てがくぜんとした。

「すごく怖い顔をしていたことに気づきました。お客さまに夢や希望を与える化粧品を扱っているのに、これは商品を販売する人の顔じゃないと。だから、チームのメンバーも私のご機嫌をうかがうような目つきをするのかと腑に落ちたのです。その同僚には『そんな責任者の下で働くあなたの部下がいちばんかわいそう』と言われ、心に突き刺さりました」

そのときふと、上司に業績評価の面談で注意されたことを思い出した。チーフになって間もない頃、「自分の物差しで他人を測る」と指摘されたのだ。私ができることは皆もできるだろうと思って指示しても、自分の物差しで測っているにすぎず、相手の立場で考えてはいないのだと。頭では理解したつもりでも、自分は変わっていなかったのだと反省した。

そもそもメンバー全員のことをきちんと把握していただろうか……。顧みると、一人ひとりの個性やどんな家族構成なのかも知らなかった。あらためて部下と向き合おうと思い、仕事に対する思いや抱えている問題などを聞かせてもらう面談をした。会社の外でお茶を飲んだり、食事に誘ったりして、二人でゆっくり話せる時間をとったのだ。

「私は物事を包み隠すのが嫌なので、『最近いろいろあったよね。たぶん私に対して不満もあると思うから、ざっくばらんに話を聞きたいの』と声をかけました。すると最初は部下も黙っているけれど、少しずつ心を開いてくれて。『忙しそうで声をかけづらかった』『もっと仕事を振ってくれたらよかったのに』と言われると、まさしくその通り。私ももっと部下を頼りにすればよかったと思いました」

やがて部下は職場でも何でも話してくれるようになり、「報・連・相」もスムーズになっていく。チーム内の情報共有や業務の連携も強化され、ミスが少なくなった。