コーチングにも通い接し方を改革!

山本さんはコーチングのセミナーにも通った。部下との接し方を変えようと努め、幾つか心に決めたことがある。ひとつは、部下に「お忙しいところ申し訳ありません。今、お時間いいですか?」と聞かれたら、何をやっていても手を止めて「全然忙しくないよ。大丈夫だよ」と笑顔で答えること。もう一つは、チーム内でより発言しやすい雰囲気をつくることだ。会議ではまず気持ちを和らげる話をしてから笑顔でスタートする。大きなプロジェクトやイベントなど、メンバーがやりたいと言ったことは、全面的にバックアップした。

「何もしないでモヤモヤするなら、とにかくやってみようと。『あとはいいよ、私が面倒見る』と背を押しました。失敗したらどうしよう、うまくいかなかったら……メンバーが弱気になったときは『女は度胸!』と励まして(笑)。新しいことに挑戦すれば失敗もするけれど、次にミスしないためには何をすればいいかを皆に考えてもらう。私から結論を出さず、メンバーの主体性を信じることで一人ひとりの能力も引き出せるように努力しました」

思わず涙が込みあげた部下の言葉

もともと「仕事は楽じゃないけど、とことん楽しくやる」ことが、入社時からのポリシーだったという山本さん。周りからは「悩み事なんてないでしょう」と言われるほど、いつも元気なことが取柄だったが、いつしか楽しくやることができなくなっていた。初めて管理職になった頃は一人で何でもやろうとして、ずっと孤独感もあった。だが、チームのメンバーと話し合えるようになると、仕事もどんどん楽しくなっていく。一人ひとりが楽しく、やりがいを持って働ける環境づくりを最優先業務にしたという。

「部下からはプライベートな悩みも聞きます。重要な仕事の最中に、子どもを病院へ連れて行かなければいけなくなった人がいたら、チーフの自分から『代わりにやるから大丈夫だよ』と言うと、他の子が『私がやっておくからいいですよ』と引き受けてくれるようになる。私の言動をきっかけに、互いに支え合う環境づくりも大切でしたね」

チーフを務めて2年後、山本さんは課長代理に昇進した。社内で辞令をもらった日、部下に報告すると、「おめでとうございます! 私たちもこのチームで働けて嬉しいです。恵子さんが上司で良かった」と心から喜んでくれた。「もっと上を目指してくださいね!」と皆が拍手してくれて、思わず涙が込みあげたと山本さんは照れる。

「独りよがりになっていた自分に気づかせてくれたのも、チームの仲間だった。教育グループでの16年間には私も後輩からたくさんのことを学び、仕事は『人』がすべてなのだと実感しました」