「資本主義的ではない」コモンは維持が難しい

③コモン(シャトレーゼ経済共同体)の維持リスク

シャトレーゼの独特の強みとして、仕入れ先、FCオーナーなど取引先との運命共同体としてのコモンができあがっていることがあります。これは他の企業をよせつけない強みとして機能する一方で、将来その維持ができなくなるリスクを内包しています。

理由はこのコモンは資本主義的ではないからです。

現代社会の大企業は基本的に資本主義システムの中で最適化を目指す競争をしています。シャトレーゼほどの企業規模になれば本当は株式を上場して資本市場から資金調達をしたほうがその規模を運営維持しやすいものです。

株式マーケット
写真=iStock.com/phongphan5922
※写真はイメージです

しかしそれをやるとコモンが成立しなくなります。なぜなら企業として株主を最重視しなければならなくなるからです。コモンが崩壊することがわかっているからシャトレーゼは上場しない。それはそうでしょう、シャトレーゼほどの優良企業が上場すれば利益を求める外国人投資家があっという間に株を買い集め、シャトレーゼは資本構成としては外資企業になってしまいます。

未来の指導者に運命は委ねられている

そもそもシャトレーゼの共同体経営は資本主義社会の異端であり、ポジティブに言えば実験的な成功例です。本来、コモンはすばらしいものになるはずだと予想されていた一方で、そのような理想のコモンを実現した社会は外部にはほとんどないのです。

実はコモンをめざした社会の際たるものは、20世紀に次々と誕生した共産主義国家です。それらの国々でコモンが成立できなかった最大の理由は、権力者が腐ってくるからです。私の知る限り、コモンが唯一成立できたのはカストロが率いたキューバだけだと思っています。

今から10年後、25年後といった未来のシャトレーゼを誰が率いているのか、誰にもわからないかもしれません。シャトレーゼの経営計画が着々と進めば、その頃には日本国内の店舗よりも海外の店舗の方が多くなる。言い換えればコモンはアジア全体に広がるでしょう。その未来のシャトレーゼが今のような「機能するコモン」を維持できているのかどうかは、そのときの指導者次第でしょう。そしてそれは非常に難易度の高い、経営課題なのです。

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