セブンは「安くておいしい方法論」を完全制覇している

そのセブンプレミアムのお菓子と比較して、YATSUDOKIのお菓子は商品設計的にずぬけているようには思えない。まだ事業開始から2年目でこういうことを言うのは酷だと思いますが、現時点での現実はそうでしょう。

最初から高級原料をふんだんに使ったシャインマスカットのホールケーキは当然おいしいが、YATSUDOKI向けのフィナンシェやマドレーヌは、ブルボンが製造するセブンカフェのフィナンシェを超えるほどの特徴はありません。

そして本当の問題は、この障壁を抜ける解がないかもしれないということです。なぜならセブンは先ほどの「安くておいしい」を成立させるための方法論の中で①~⑤までを完全制覇しているからです。

一方のYATSUDOKIは無添加と本物の材料に縛られながらセブンを超えなければいけない。その観点からYATSUDOKIは店舗数を増やすほどに「中流にとって安くておいしい」「庶民の贅沢商品」のゴールが遠ざかるリスクを抱えての船出の最中だと私は思います。

青い海の上を航行するヨット
写真=iStock.com/Travel Wild
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強力なリーダーシップを失うリスク

②商品多様化リスク

シャトレーゼの強みは人にあるという話をさきほどしました。具体的にはシャトレーゼでは権限移譲が進んでいて、社内では150人の責任者がプレジデントと呼ばれ、それぞれの役割の最高責任者として機能しています。これはシャトレーゼの社内ではプレジデント制と呼んでいる制度です。

よく言えばこの体制は人の強みを最大化する仕組みといえるのですが、弱点としてはプロダクトアウト型経営に陥りやすいというリスクがあります。「おいしくて安い」という共通項を離れて味が多様になったり価格帯が多様になったりする。もともとメーカー色の強い企業はこのリスクと常に隣り合わせです。その理由は、作り手というものはつねに工夫をしたいからです。

実際、私自身シャトレーゼの商品を食べていて、同じカテゴリーでもこれはおいしいけれどもこれはおしくないという製品がたくさんあると思っています。シャトレーゼの店内には400の商品があるそうですが、商品点数が多いのはそもそもプロダクトアウト型の企業の特徴です。これから商品数がさらに増えていき消費者の好みから離れていくリスクを伴います。

それを制御するのはシャトレーゼの場合、87歳の創業会長ということになるわけですが、この仕組みはそのような強力なリーダーシップがあって成立する仕組みだという点が課題です。呪いをかけるつもりは毛頭ありませんが、武田信玄がいなくなったことであれだけ盤石だった武田家は滅びます。息子の武田勝頼が武将としての評価が高かったにもかかわらずです。人が強みの企業には常に、人が代わることによる未来のリスクは存在しているのです。