製造直販モデルだからロスの発生を防ぎやすい

④の「安く製造できるように生産ラインを工夫する」は、そもそもシャトレーゼは工場であるという点から理解するといいでしょう。お菓子は手作りをすると非常に手間暇がかかるものですが、工程を工夫すれば同じ風合いを機械で再現できるようになる。ここはやり方を誤ると機械化や機械に向いた材料を選択することで味が落ちたりするのですが、シャトレーゼは「おいしい」を優先している分、味を落とさずに機械化する生産工程改良が得意な様子です。

そしてユニクロと同じ製造直販モデルであることから、⑤「サプライチェーン管理をしっかりしてロスの発生を防ぐ」の部分についても、一般のスーパーと違ってサプライチェーン上のロスが出ないように管理がしやすい。このように③~⑤が機能していることで①と②に手を染めなくてもシャトレーゼのお菓子は十分においしくて安いのです。

もうひとつシャトレーゼのビジネスモデルで面白い点を挙げてみます。これはユニクロとは決定的に違う点なのですが、上流の契約農家から下流のFCオーナーまでコモン(共同体)というべき経済共同体が出来上がっているという点です。

人の力を強みにした「共同体」ができあがっている

ひとことで言うと、コモンとは企業をオーナーの持ち物ではなく、関係するすべての人々の共有財産のように扱うという、経済学の理想の概念です。コモンの中ではお互いに協力しあうとともに、お互いがよくばることなくお互いに相応の利益が残るようなフェアな関係性を目指す。シャトレーゼはこれができています。その理由としては、シャトレーゼが上場していないことが決定的に重要だと思います。

植物の育成
写真=iStock.com/Wand_Prapan
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この契約農家やFCとコモンを形成するという経営形態は、現代的な経営戦略とは決定的に発想が異なります。

現代的な経営戦略理論の最大の発見は「利益は競争相手から勝ち取るよりも、優越的立場を利用して取引先や従業員から勝ち取るほうが容易である」というものです。1980年代にこの発見が広まったことで、21世紀の資本主義社会ではほとんどの企業が大手取引先からの優越的立場に苦しめられながら活動をしています。

同じ製造販売モデルのユニクロは、上場企業であるがゆえにその視線は徹底的に顧客(消費者)と株主の利益に向いています。しかしシャトレーゼの場合はオーナーの視線が顧客、従業員、取引先(契約農家やFCオーナー)に等分に向けられている。それゆえにコモンに所属する人の力がうまく集結できているところに特徴があります。

シャトレーゼの本拠地のある山梨はそもそも武田信玄の領地だった場所ですが、シャトレーゼの場合も「人は城、人は石垣、人は堀」を地でいく、人の力が強みとなるコモン(共同体)ができあがっているのです。