大手スーパーのお菓子よりも材料費は高いかもしれない
シャトレーゼの面白い点は①と②が真逆で、実は大手スーパーで売っているお菓子よりも材料費は高いかもしれない点です。「おいしいお菓子を安く」という考え方の中でも「おいしい」に力を入れすぎているせいで、原材料コストを下げにくい構造なのですが、それを容認しています。
有名な例は、草餅に使うよもぎを社員が摘みに行くという話です。よもぎは普通のお菓子メーカーは問屋から買うのですが、着色してあるうえに香りがよくない。山梨県に本社があるシャトレーゼでは「だったら山から採ってこよう」といって、山主さんと交渉して旬のシーズンに社員が一年分のよもぎを山に摘みに行く。当たり前ですが原材料コストは高くなります。
「おいしい」お菓子の原材料として卵や生乳の品質を一定にするために契約農場を確保したり、材料の天然水をわざわざ水源から運んだり、安全を優先するために添加物を入れなかったりとシャトレーゼは基本的には原材料コストが上がるようなことばかりしています。
「5年生の子供と30代の両親が一緒に食べる」ような商品
それなのになぜおいしくて安くなるかというと、経営学的な秘密があって、上記でいえば③~⑤が非常にうまくいっているのです。ここを順に見ていきましょう。
まず③の「おいしくて安い商品設計をする」ですが、シャトレーゼの商品設計は顧客視点で見るとターゲットがはっきりしています。あきらかに「庶民にとっておいしくて安い」ことを目指しています。典型的なターゲット顧客シーンのことをマーケティング用語でペルソナと言いますが、ペルソナ的には「庶民的な5年生の子供と30代の両親が一緒に食べて“おいしいね”と会話する」ような場面にフィットする商品です。
お菓子というものはおいしく作ろうと思えばいくらでもおいしくなります。一流のパティシエは、チョコレートはフランスのヴァローナから仕入れたりバターはエシレを使ったりと原材料の価格に糸目をつけません。しかし「庶民のおいしい」は市販のチョコでも十分においしいものです。
その点でシャトレーゼのお菓子は「庶民がおいしいと思うお菓子を設計する」ことにきちんとフォーカスしています。シャトレーゼで人気のアイスもターゲットが違うのだから、高価格帯アイスのハーゲンダッツと原材料比が違って構わないわけです。