中学受験に挑む子はテストで100点ばかりの精鋭たち
準備を始める前に、保護者に中学受験の現状を知っておいてほしいと西村さんは言う。それは、中学受験をする子供たちの学力レベルが非常に高いことだ。
「ちょっと頑張れば偏差値60を取れると思っていたり、偏差値50を切るとがっかりしてしまったりする親御さんは結構います。しかし、中学受験をするのは学校のテストで常に100点を取れる子が多い。ほとんどが90点以上を取る子供たちです。そんな子たちの母集団の中で偏差値を取るのは非常に大変なことはわかっておいてほしい。
ある推定では中学受験の偏差値60は、高校受験では73ほどの超難関レベルに相当するといわれています。模試の中でもハイレベルで知られるサピックスの模試では偏差値50が高校受験における70以上です。つまり、中学受験で偏差値50というのは、かなりの学力があるということです」
入塾後、期待していた偏差値が出ず不安になってしまう保護者は多い。西村さんが「低学年から塾に行かせる必要はない」と考える理由の一つは偏差値や順位が出ることで右往左往してしまう親が多いことだ。
「はっきり数字で表れるので、子供よりも保護者が気にして不安になってしまう。でも低学年の模試と入試では問題がまったく違いますし、偏差値も別物だと思ったほうがいい。塾によっては4年生からは満席で入れないところもあるようですが、早くから親御さんがお子さんの偏差値に一喜一憂してしまうことでお子さんが勉強嫌いになるリスクもあるのです」
多彩な遊びとお手伝いをさせよう
では、中学受験に不可欠な学力の土台とはどのように育まれるのだろうか。西村さんは、子供がいろいろな実体験で得た感覚が学力の土台になるという。
「『ホールケーキを3人や5人で等分に切り分けるのは難しい』とか、『10円玉を100枚集めたら千円札1枚と同じ』など、食事や買い物といった生活の場面で得られる感覚です。この感覚が身についている子は、問題文を読んで答えるときにも、単に数字を処理するのではなく、頭の中に具体的なイメージをつくりあげられます」
この感覚があるかないかで、学習の理解の深さは違ってくるそうだ。とはいえ毎日、習い事や体験講座に連れて行くというのではなく、日常の何でもない体験にヒントがある。たとえば遊びに目を向けてみよう。
「工作や折り紙、お絵描きなら空間認識力や線対称や点対称といった図形の勉強につながります。トランプをすれば数字にも親しめるし、戦略を考えると論理力もつきます。たとえば神経衰弱なら、裏返したカードの数字と場所を覚えておく必要があるので、短期記憶が鍛えられますよね。この短期記憶はテスト問題に出てきた数字や言葉を解答用紙に書き写すといったときにも役立つ大事な力です」
また外遊びのかけっこなら「速く走れば短い時間でゴールする」「目的地までに何通りもルートがある」といったことが自然と身につく。
ゲームをしたりテレビを見たりすることも悪いことではないが、そればかりでは、経験の幅は広がらない。
「低学年はまだ親と一緒に何かをやるのが楽しい年頃。放っておくとスマホやゲームばかりやってしまうという子は、親ができる範囲でボードゲームやキャッチボールに誘ったり、工作を一緒にやったりするといいでしょう」
さらに西村さんは、家事の手伝いもすすめる。
「忙しいと子供にやらせるより自分がやったほうが楽と感じる親御さんは多いかもしれませんが、お手伝いこそ物事の段取りを考えたり、優先順位を判断したりする力が身につくいい機会です。お手伝いの方法や習慣を子供に身につけさせるまでは大変かもしれませんが、子供が家事の戦力になると親は助かりますよね。玄関の靴を揃える、朝起きたらカーテンを開けるといった簡単なところから子供にまかせてみるといいですよ」